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鳴子温泉巡り旅

17.鳴子温泉のガソリンスタンド






 次の温泉への移動中、くららさんは何度も車中から携帯電話を掛けていた。
 実は今夜から合流する予定の中学生の息子さん、はやとくんとあれこれやりとりしていたのだ。
 そして、大宮から新幹線に乗れば古川まで来ることができると電話ではやとくんに説明はしたものの、えーと、新宿から大宮まで何線に乗ればいいんだっけ?と私と屋代さんに聞いてくる。
 突然言われても・・・。
 た、確か埼京線のような気がするけど、ここは決して間違っちゃいけない。間違えたらはやとくんは迷子になってしまう。だから絶対そう? 確信有る? と聞かれたら、ぶんぶんと首を横に振りそう。
 屋代さんが先ほど事前連絡をしてくれれば温泉に入れると教えてくれたガソリンスタンドで車を停めた。
 車から降りてガソリンスタンドのお兄さん(おじさん?)に事情を説明して聞いている。
 お兄さんは「埼京線だよ」と言いながら車の中を覗き込んで、私とくららさんの顔をしげしげと眺めた。「本当に東京の人たち?」
 いやー、顔から火が出そう。すいません、東京在住のくせに東京の鉄道が全然判らなくて。でも決して似非東京都民じゃないんですぅ。
 「だって電車で大宮になんて行かないもんね」とくららさんと顔を見合わせる。
 電車は都心方面に向かって乗るもの。埼玉方面に行くときは車だよ~。
 こんなこと、元々国鉄系鉄っちゃんでならしたダンナに知れたら絶対笑いものにされてしまう。
 「彼女たちはセレブだから、大宮じゃなくて六本木ヒルズとかにしか行かないんだよ」と屋代さん。
 それは嘘です。

 このガソリンスタンドを出る前、屋代さんは両手にそれぞれ小さなスプレーを持って帰ってきた。
 どうもガソリンスタンドに寄った本当の理由は、鉄道の路線を聞くためではなく、元々このスプレーを手に入れるためだったようだ。
 スプレーのプラスチックボトルには何か透明な液体が入っていて、回りに紙を巻き付けて輪ゴムで留めてある。
 紙にはこうあった。
 「うすめず・加えず・温めず すべての加工工程を除き、単純に容器に入れた100%の温泉です。ご家庭で温泉入浴後に感じる肌を手軽に再現してもらうために生まれました。 <中略> 国民宿舎(民営)ホテル瀧嶋(薬湯)
 国民宿舎、括弧、民営って表現が気になる。
 国民宿舎って基本的に国営なんだっけ? その辺からよく判っていないが、わざわざ民営と括弧付けで書いてあるところに妙な真面目さを感じる。
 屋代さんがそのスプレーを構えて「手を出して下さい」と言った。
 くららさんは躊躇しているようだが、何でも試してみたくなる私は率先して手の甲を出した。
 シューッとひと吹き。
 それからこする。
 みるみるうちに液体が乾いた肌に吸収されていくのが判る。
 「えっ、えっ?」
 そしてしっとりしてなんともなめらかな手触りになる。
 吸収の仕方がまるで普通の水と違う。完全に乾くと今度はさらさらしてきた。
 「うそっ、すごいすべすべになるよ」
 本当ー? と、ちょっと訝しげな顔でくららさんも私の手をこすった。
 「これ、なんなんですか?」
 「これはホテル瀧嶋の源泉をそのままボトルに詰めたものです。瀧嶋のご主人が暇を見てはこつこつ詰めて、こうして希望する人に配布してくれるんです。私はこの源泉を化粧品会社にも送ってみたことがあるんですけど、まるでなしのつぶてでしたね」
 そりゃあもったいない。化粧品会社の人は自分で使ってみたんだろうか?
 「それじゃあその瀧嶋に行ってみましょう」






2-18不思議な薬湯-ホテル瀧嶋へ続く


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