4.旅館 新飯坂
薄暗い中、重厚な瓦屋根の入り口が見えた。駐車場の植木も庭園風に手入れされている。今が暗いからアラが見えないだけかもしれないが、正直に言って二千円で泊まれる宿とはとうてい思えない。
玄関前には水瓶が並べてあって足の湯と書かれている。まあここで足湯をするのは無理だろうから手湯がいいところかな。でもなかなか雰囲気がいい。
ロビーは広々としていてこのときは気が付かなかったが奥のガラスの向こうはやはり庭園になっていた。
パーマを掛けた髪が何となく着物姿に似合っていない女将さんが「いらっしゃいませ」と迎えてくれた。話し方が品良く、この方がさっき電話に出てくれたんだなとすぐに判った。
子供用のスリッパもすぐに奥から出してきてくれた。この子供用スリッパの有り無しでうちの娘たちにとっての宿の第一印象が決まるみたいだ。ここはサイズもぴったりでお眼鏡に適ったらしい。
ご自由にお使い下さいと台の上に置かれた子供用の玩具などもあって、家族連れを歓迎している節が見える。
部屋は四階だった。
部屋に行く途中、廊下の窓から何かぎょっとするものが見えた。
錆びかけた巨大な古代風の刀剣が天を突き刺している。
晴れた昼間に見たらまた印象も違うんだろうけど、薄暗い中にあれは吃驚した。
何メートルあるんだろう。滝が流れていて、朱塗りの橋も見える。
飯坂温泉には日本武尊の謂われがあるから、それ関係かなぁと思ったが、後で宿の人に聞くと、これはお不動さまの剣なのだと教えてくれた。滝の右手に赤い屋根の祠があり、お不動さまが祀ってある。また、医王寺に源義経ゆかりの品が収めてあることからも、剣を庭園に飾ることにしたのだそうだ。
そうは言うけど剣のデザインはどう見ても日本武尊風で、お不動さまや増してや源義経風ではない。
新飯坂の滝と剣がある庭園は、福島の庭園30選にも選ばれたことがあるという。剣が錆びてあちらこちらはげていなかったら、もう少し雰囲気も良いのではないかと思う。