5.茅葺き屋根の西屋旅館
食事を終えるとちょうど良い時間になっていた。
西屋の駐車場に移動して、無料パスポートを手に車を降りる。
さっき西屋の前を通りかかったときは、仲居さんたちがせっせと窓を磨いていた。
古い家屋を美しく維持するのは大変なのだろう。
茅葺きでない棟の方には枝垂れ桜が満開の花をつけている。
白布で西屋を選んだのは、パスポートで無料になるというのもあったが、前々から西屋が白布で一番行ってみたいところでもあったからだ。
パパが言った。
「お風呂は4、5人が入れる程度の小さいものだって言うじゃない。そこ(西屋)、何があるの?」
・・・何がって言われると・・・。
露天風呂があるわけじゃない。展望があるわけじゃない。
何がって言われると困る。
茅葺きの古い建物だとか、お湯もとてもいいらしいとか、一応いろいろあるけれど、何でここに拘るのかって聞かれると、ちょっと自信がなくなった。
つまらないお風呂だったらどうしよう。
でもま、タダなのは確かだから、とにかく行ってみよう。
茅葺き屋根の棟の隣に玄関がある。ちょっとドキドキしながら引き戸を開けると、何だか殿様がくつろいでいそうな広い玄関でびっくり。
ご主人が出てきて受付をして下さった。まだあまりパスポートを使った人はいないのか、しげしげと頁をめくってスタンプ欄を探していた。
お風呂は玄関を抜けていったん外に出たところにあるという。靴を脱がなくても行かれるように、土足用の細い通路がついていた。