5.尼湯
さて、この小野川温泉のシンボルは、
共同浴場尼湯である。
独特のカーブを描く屋根のついた湯屋建築で、近くのつるや商店又は山川屋商店で入浴券を購入し、券を自分の脱衣棚の前に表示して入浴するシステムをとっている。
尼湯の前に飲泉所があり、ここで小野川温泉の源泉を飲むことができる。
ほとんど熱湯で、少し冷まさないと口にできないほどだった。クリアで傷んでいないようなゆで卵臭があり、味は出汁の利いた濃いめの塩味。かなり美味しい。料理に使ってもいけそう。
熱いのを見てとってか、飲泉好きのレナも臭いをかいただけで首を横に振った。感想は、「焼き卵みたい」。
しかし目の前の源泉があんなに熱いと、お風呂もまたしかり。
カナはパパと男湯に、レナは女湯についてきたが、子供たちを入浴させるのは苦労しそうだ。
初日の
飯坂温泉鯖湖湯みたいに脱衣所と浴室がつながった作り。細長くて、脱衣所も狭い。
タイル貼りの浴室には地元の方二人と、観光客二人。
観光客の若いお姉さんは、レナが近寄っても冷水を出しっぱなしにした蛇口のところから動こうとしない。というかお湯のあまりの熱さに動けずにいるらしい。
何とか少し移動してもらって桶に水を汲んだ。鯖湖湯の時と同じで、ぬる湯ミックス掛け湯作戦だ。
とりあえず自分がそろそろと入ってみる。
熱い。でも鯖湖湯に比べれば入れないほどではない。浴槽を隅から隅まで移動してみて、実は水道の蛇口があるあたりが一番熱いことに気づいた。
反対側から源泉が注がれていて、そこからまっすぐ蛇口の方へお湯が流れて掛け流されていくので、どうしてもそこが一番熱くなるのだ。ここで冷水を入れてもそれは流れてしまうばかりであんまり意味無いじゃない。
だから逆にぬるいのは、源泉のすぐ横あたりだった。もちろんぬるいと言ったって子供が喜んで入るにはほど遠かったが。
その辺が一番お湯が澱むあたりで、湯の花も一番多く漂っていた。透明なお湯に白い湯の花だ。
レナに、「こっちの方がぬるい」と言って無理矢理入れてしまった。
カナにはこの技は利かない。彼女は嫌だと言ったら何が何でも嫌というタイプだからだ。
レナは気に入ればそれで良しというタイプなので何とかなる。
「嘘だ、熱いじゃないのー」と文句は言われたが、何とか二人で入浴することができた。
上がると案の定、カナは入らなかったと聞いた。源泉と冷水のミックス掛け湯だけで終わってしまったそうだ。まあ、いいか。
独楽の里では晴れ間ものぞいていたが、尼湯を上がると細かい雨が地面をぬらしていた。
先ほどのラジウム卵を三つ買って、雨の小野川温泉にさよなら。