3.熱湯激闘、鯖湖湯に負けるな
飯坂温泉は千数百年前に日本武尊(やまとたけるのみこと)が東征の折り、
鯖湖湯で病を平癒した伝説を持つ。
風情ある建物で、入り口からして男女別。中に入ると入浴券の自動販売機があり、そこで大人100円、子供50円の券を買い、受付の箱に入れる仕組み。
一歩入って中を見回すと、ああそうそう、こんな作りだったと思い出す。
中はとても明るく、右手に脱衣所、左手に浴室。しきりが全くなく、段差だけ。奥にベビーベッドもあった。しかしここみたいな熱湯に赤ちゃんは入れるのかな。
レナはパパと男湯に向かったので、カナが女湯だった。
案の定、先に浴室に降りたカナは、あまりの熱さに掛け湯すら躊躇しているようだ。
なんの、先日の
四万温泉御夢想の湯に比べたら熱い湯なんてないさと思い、ざばっと自分にかけてみると・・・おお熱い。
足がじんと痺れた。
うん、こりゃ熱い。
見ると四角い浴槽の両端に、それぞれ水道がありホースが繋いである。が、しかし、朝早く地元の人の利用がほとんどなのか、どちらのホースも浴槽には伸ばされず、止められたままだ。
すなわちこれが薄めない飯坂温泉そのもの。
カナには洗面器に水を汲んでこさせ、一方で別の洗面器に浴槽のお湯を汲み、混ぜ合わせて掛けてやった。何度かそれを繰り返して、あとは本人にやらせることにした。
自分はそろそろと入ってみる。
むむむ。
熱湯なんとかショーみたいだ。
そうとう何度も掛け湯をしないと入れない。掛け湯は足はすぐ馴れたが、上半身はひりひりするほど熱く感じる。
それがお湯に身を沈めると、今度は上半身はすぐ馴れるのに、足が猛烈に痛み出す。特に膝下。膝下がじんじんひりひり、やけどを負ったみたいだ。
数秒で上がる。
上がってもまだ膝下が痛い。触ってみたらずきずきした。しかもちょっとしか入れなかったので上がると寒い。
そこでもう一度入る。
今度はもう少し長く入っていられる。それでも足は痛い。
それを何度か繰り返してようやく寒気が止まった。
そうしている間もカナはせっせと水とお湯を混ぜて洗面器で掛けている。これではとても彼女は入れないかなと思っていたところ、もう一人観光客らしい若いお姉さんが苦労しているのを見て、地元の人が反対側の水道ホースから水を出してくれた。他の人たちも、入れずにいたカナを見て、あっち側はぬるくなってきたから入ってごらんよと誘ってくださる。
「水の出ているところなら大丈夫だから」と言われて、カナもそろそろと身を沈める。水道ホースの場所をカナに奪われてしまった若いお姉さんは、体が馴れたらもうちょっと奥の方へ来てごらんと他の人たちに誘導されて中へ入っていった。
私もカナの隣に入れてもらう。
おお、適温。
「熱い」しか考えられなかったさっきと違って、お湯を楽しむ余裕も出てくるというものだ。鯖湖湯のお湯はほんの僅かにゅるにゅるする。臭いや味はほとんどない。湯上がりは驚くほどつるつるすべすべ。ちょっと何かでコーティングされたようなつるつる感だ。