「パパとお風呂行かない?」
「えーっ、どうしようかな」
なんだかんだ言っていた子どもたちだが、結局山ほどのポケモン人形を袋に入れてお風呂に向かってしまった。
暇だ。
窓の外はいつの間にかまた霧に包まれていた。
さっきまで見えていた熊堂ゲレンデのリフト乗り場や昨日食事をしたグリルウィンターの建物はもちろん、
和泉屋の両隣の建物の壁すら見えない。白い絵の具を塗りたくったようだ。
何もすることがないので、部屋の炬燵に足を入れてマンガを読み始めた。
マンガなんてまともに読むの、何年ぶりだろう。
和泉屋の廊下には本棚があって、そこには山の本、釣りの本に混じってザ・シェフというマンガが並んでいた。
流しの天才シェフが出会う悲喜こもごもの物語が一話完結の短編集になっている。
ストーリーはまるでブラックジャックの料理界バージョン。料理や食材に関する蘊蓄はなかなか興味深いものの、ラストシーンはワンパターンに主人公の傾いた後ろ姿が木枯らしの中、消えていく。
何というか重く暗く湿った雰囲気が如何にも今日の悪天候の赤倉に似ている。あまりにも今の雰囲気に似つかわしい。読んでいて益々鬱陶しくなってきた。
パパと子どもたちがお風呂から帰ってくるまでの間に3冊ぐらい読んでしまったろうか。
いい加減飽きてきた頃ドアが開いて賑やかな声が聞こえてきた。
「お帰り」
「楽しかったよ~」
「ずいぶん長く入っていたじゃない」
「あっ、窓の外が真っ白だ」
「みんながお風呂に行ってからすぐに真っ白になっちゃったんだよ」
「なんにも見えないねぇ」
窓に張り付いて見ていたカナとレナはそのまま窓際の部屋でまた人形を使って遊び始めた。
霧はそれからだんだんとはれてきたが、意外なことに雪がちらつき始めた。
天気予報では雨だと言っていたのに。
これはもしかしたら明日は滑れるかも。