10.予感
藤野やまなみ温泉は町営施設だ。
ちょうど日暮れ時で逆光の中に浮かび上がった建物は、デザインこそ先進的だがコンクリートの感じなどかなり古そうだった。
駐車場はぎっしり。ロビーに入ると思わずぎょっとするような消毒臭。でもこれは清掃の臭いのようで、別にお湯の臭いじゃなかったのでホッとした。
カナには先手を打って「時間つぶしだから」と説明した。
言い訳っぽいけど、渋滞で車の中に閉じこめられているよりいいじゃない。もしかしたらあなた達のはまるお湯かもしれないし。
パパにはゆっくり入ってきてと言って、子供たちは女湯へ誘導する。
さてここの温泉は公共のセンター系らしく脱衣所にベビーベッドなど備え付けてあるが、ぎょっとしたのは脱衣所のゴミ箱にそのまま使用後の紙おむつが捨ててあったこと。
・・・一番マナーが良いのは自分たちで持ち帰ることだが、せめて捨てるならビニール袋で密閉して見えないように捨てないか?
何だか嫌な予感がした。
日曜日の夕方なので浴室もかなり混雑していた。入って左手に大きめの浴槽。右手にサウナと水風呂。中央に少し小振りな浴槽があり、どうもここは源泉がそのまま使われているらしい。他に比べるとぬるく、明らかにお湯の色が違う。
他が無色透明なのに、中央はごく薄く白濁している。お湯使いはよく判らないが、ここだけ顕著なオーバーフローがあった。
ついさっき入った
天水にかなりよく似た印象のお湯だった。天水はカルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物泉、藤野やまなみ温泉はナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物泉、カルシウムとナトリウムがそれぞれひっくり返っているだけなのだが、臭いも感触もそっくりだ。
臭いはしつこく出しすぎた昆布出汁の臭い。肌触りはきしきし。天水ほどにぎしぎしとはしないが、かなり引っかかる感じがあり、天水以上に湯上がりはべたつく感じが残る。
やっぱり長湯の出来ないお湯で、少し入ってはゆっくり休んでの繰り返しになった。