「で、どうやって帰る?」
さっきの道はもうこりごり。
まあ、私はいいけど運転手は辛いだろうし、子どもたちも行きは車に酔って吐きそうだったと言う。
別の道を選ばなくては。
パパは車のエンジンをかけ、ナビの地図を表示した。
「いいか、これが行きに通った道だろ。ほら、少し遠回りになるけどもう一本隣に国道403号線が走っている。こっちを通ってみよう」
地図で見る国道403号線は、正直なところ行きに通った県道13号線と蛇行具合はそう変わらない。でも道沿いに点々と字名が付いているから生活道路としてそれなりに使われているはずだ。
「じゃあそれで行ってみよう」
他にも松之山方面に抜ける405号線を使い、途中で川沿いに北上する案なども考えたが、結局403号線を行くことになった。
行きに立ち寄った道の駅を過ぎて、まだまだ北上、安塚の交差点で東へ曲がった。
初めのうちはそこそこ綺麗な道だったが、やがてまたどんどんと道幅が狭くなりはじめた。
細野というところで細野こども王国といった看板を見つける。
雪の中、ロッジのようなものをいくつも建てているようだ。そのうちに高柳にあった新潟県立こども自然王国みたいなものができるんだろうか。こんなに辺鄙なところに子供の遊び場を作っても需要があるのか少々謎だが。
ちょうどこの辺り、ナビで見るとすぐ北側に霧ヶ岳という山があるようだ。
霧ヶ岳と言うと・・・確か霧ヶ岳温泉ゆあみという施設があったはず。
この近辺では唯一冬季でも動脈として機能している幹線道路がゆあみの側を通っていたはずだ。
とてもこの道がそうとは思えないから、ちょうど霧ヶ岳の反対側にそれが通っているということか・・・。
ということは、やはりこの道はハズレで、さらにもう一本北の回り道が正解だったかもしれない。
細野を過ぎて一方通行といってもおかしくない山道は、やはり行きと同様険しい峠を越えて、九十九折りの下りに差し掛かった。
「なんだか行きに通った道と景色がうり二つ~」
「あの山をひとつ越えた向こうがその道だから景色も似たようなものなんだよ」
「がっちゃんたち、どこを走っているかなぁ。この道だったらやっぱり泣きそうだよね」
ふと腰にぶら下げた携帯を見たら、電波は圏外になっていた。
「こんなところで雪崩とかあったら嫌だよね。人家もないし対向車もいないし、まあ対向車がいたらいたで事故を起こしそうで怖いけど」
そう口に出したとたん、すぐ前の谷筋に小さな雪崩跡が見えた。道路上に少し雪が落ちている。
「ひや~、怖いよー」
峠の前後は厳しかったが、道路状況の酷いところは行きの県道よりはかなり短く、何とか山を下って保倉川の川筋に出た。
この先の道路は楽勝である。
ようやく胸をなで下ろしながら松之山街道を走った。
後でちゃんとした地図を確かめたら、行きに通った県道13号線も、帰りに通った国道403号線も、峠の周辺は冬季通行止めの×印がついていた。
ということは例年なら年明けのこの季節にあの道を通ること自体、できない可能性が高いのだ。
たまたま今年は暖冬で、年末に全然雪が降らなかったこともあり、通行できてしまったということらしい。
どうりで対向車の影も無いはずだ。
だから冬に松代から
キューピットバレイに行こうとしたら、儀明峠トンネルを通ってあの霧ヶ岳の北側の国道253号線を行くしかない。かなりの大回りに思えるが、ずっと川沿いで峠を越える必要のないこのルートは道もほぼ直進で走りやすいはずだ。
そんなことが判ったのは全て後になってからだ。
そしてそのことを実践してくれたのは実はがっちゃんたちだった。
ようやく見慣れた池尻の交差点まで戻ってきた。
ここを直進すれば松代駅前。
右折すれば松之山温泉方面。
そして左折すればみらい2号館のある方向でもあり、その霧ヶ岳の北の道や高柳方面に通じる道でもある。
信号が赤で停まった。
すると左手から見慣れた車が走ってきてそのまま私たちの目前を通過し松之山方面へ走り去ろうとした。
パパがクラクションを鳴らした。
えっ、あれって!!
トレーラーをぶら下げたデリカの運転席でがっちゃんが振り向いて手を振ってくれたのが見えた。
なんたる偶然。
私たちが峠を越えてひいひい言いながら二番目に遠回りの道を抜けてこの交差点についたまったく同時刻に、三番目の回り道をして霧ヶ岳の北を回り儀明トンネルを抜けて走ってきたがっちゃんの車が通過するなんて。
1分でもずれていたら会えなかった。
がっちゃんとyuko_nekoさんとちび姫ちゃんを乗せた車は、そのまま雪の松之山方面へ走り去っていった。