10.名残雪、消えて
カナは十分入ったのでもう上がると言いだした。
しかしレナはもっと入っていたいと言う。
仕方がないので内湯でしばらく付き合った。
浴槽が半円形で縁がカーブしているのを見て、レナは「これ何の形だ?」と聞いてきた。
「判らない」
「あのね、虹だよ」
休憩室に至る階段は、入り口からすぐの処にもついていたが、脱衣所からも直接行かれるようになっている。
二階に上がると既にカナとパパは休んでいた。
湯上がりの肌はさらさらになっていた。
さっきの大沢山のようなつるつるすべすべではない、パウダーをはたいたようなさらさらだ。
松之山でがさがさになったお肌も、
大沢山・
谷川温泉のダブル効果で修復されてちょうどいいかもしれない。
雨の降りしきる中、日の暮れた関越道に乗って走り出すともう車窓の景色に雪は無い。
三日前、赤城山からこちら、一面銀世界だった。
フロントガラスを叩くのは雨粒ではなく粉雪だった。
あれは名残雪だったのだ。
私たちが雪国で過ごした四日間で、最後の冬将軍は去り、今は春の雨が静かに道をぬらしている・・・。
おしまい