私は浴槽の縁に頭を乗せて天井を見ていた。
日進館は朝の光に照らされている。
黒ずんだ木の天井は何かを語りかけてくるような気がした。
乳白色のお湯は肌を通して体の中まで染み渡り、血を巡らせ五臓六腑を整え私の一部になった。
もうあと3ヶ月でここはここでなくなってしまう。
多くの人が癒され希望を繋いだ日進館は、使われている源泉もろとももうじき姿を消してしまう。
残念だという以外にどんな言葉を並べれば良いのか。
でも今はしばしこうして誰もいない湯船を独占している幸運をかみしめていよう。
きっともう、このお湯とは会えないから。
最終日 2007年9月24日(月)
まるで計ったかのように朝の5時40分に目を覚ました。
日進館が開くのは朝6時。
早すぎてもいけないかと10分ほど布団の中でうとうとして、それからタオルを手にそっと部屋から出た。
廊下ですれ違う人もいるが、みんながみんな日進館目当てとは限るまい。24時間開いている
長寿の湯や
極楽湯の朝風呂を狙っている人も多いはずだ。
「日進館は6時からですよね?」
念のためフロントにいた人に聞いてみた。
「はい、もうそろそろですね」
それでも朝の一番風呂を狙ったにしては遅すぎたか? ちょっと心配になって早足で外に出る。
今朝も万座はうすぼんやりとした靄に包まれていた。