日進館の前まで来ると、女湯から「熱すぎますー」という声が聞こえた。
建物の外に
万座温泉ホテルの法被を着た女性が立っていて、「今から調節しますね」と答えている。
あららこれは急がないとぬるめられてしまう。
私は慌てて脱衣所に飛び込んだ。
今日は女湯が右のラジウム湯、男湯が左の鉄湯だ。
外観は古びていたが、浴室内の壁などは割に新しい。
三人の先客と、私と同時に入ってきたもう一人の女性と合わせて五人になった。
お湯は青みがかった薄濁りで、思ったより透明に近い。さっき入ってきたばかりの長寿の湯のお風呂とはずいぶん違って見える。
臭いも昨日から沢山入っている白濁硫黄泉のどれよりも硫黄の臭いは薄く、むしろ酸っぱそうな臭いの方が強く感じる。
肌触りは強いきしつき。
染み通りながらも肩に重いものが乗るような酸性泉独特の入浴感がある。
ところで私が入るとほぼ同時にホースからも冷水が出てきたようだ。
あえて私はホースと離れたところに入ったが、一緒に浴室に来たお姉さんはホースのすぐ近くに入った。
「熱いでしょう、熱すぎない?」と先に入っていた方が声を掛けてくる。
私は熱めだとは思ったが、熱すぎるとは思わなかったので「大丈夫です」と返したが、もう一人のお姉さんはホースのすぐ近くでも「すごく熱いです」と言って、すぐに上がってしまった。
先客の方たちは、「温度調節をする人も、熱くしたら熱すぎる、ぬるくしたらぬるすぎると言われて大変らしいわ」と話していた。
人によって好みの温度は違うから、万人向けの温泉は存在しない。