七味温泉を出て山田牧場へ向かう途中も時々霧雨がぱらついた。
ちょっと心配だな。キャンプで雨は大敵だから。
まあテント泊ではなく、トレーラーだし、がっちゃんの新しいトレーラーは前のと違ってトイレ付きだ。増してあの二人は生粋のアウトドアマン・・・。
がっちゃんなんてトレーラーの後ろに「野外野郎」って書いたステッカーを貼っているんだよ。遠くから見ているときは千社札でも貼っているのかなと思ったけど、近づいてよくよく見たら「野外野郎」だった。がっちゃんにはまりすぎ。
でもパパ曰く、本物の野外野郎ならトレーラーなんて軟弱なもので寝たりせず、テントも張らず、寝袋一個で外で寝なきゃとのこと。そこまでやってこそ本物の野外野郎だって。
私たちを乗せた車が山田牧場に到着する頃には雨はほとんど霧のようになって、降っているともいないとも判らないような天気になっていた。
でも下がぬれていると、例の牛の落とし物が恐ろしい状態になっているはず。
私とyuko_nekoさんはキャンプ場の駐車場に車を入れると、注意しながら車から降りた。
牛の姿は無い。朝は別の場所にいるのか、天気が悪いから出てこないのか。
念のためズボンのすそをまくり上げて、私たちはキャンプ場の中に入った。
・・おや?
テーブルの前に誰かいる。
「こんにちはー」
明るく元気そうな声の可愛いお姉さんが立っていた。
「こちら、学校の先生なんだって。昨日の夕方、一人でバイクで来たんだよ」
パパたちに聞くと、もうすっかり暗くなりかけた頃、草津・
万座方面から峠を越えてバイクで到着、今から買い出しに行くというので近くには何も店がないからと止めて、一緒に夕食を食べたとのこと。
yuko_nekoさんが「どうりで。買いすぎたかと思ったジンギスカンを全部食べたって言うから変だと思っていたよ」と笑う。
「いやー、これで私たちも後ろめたい思いをしないで済んで良かった」
yuko_nekoさんはパパとチェンジしたことをずっと申し訳なく思っていたのだ。増して予想より天気も悪い夜だったし。
「こーんな可愛い女性が一緒にご飯を食べてくれたんじゃねー、そりゃ男性陣、大ラッキーだわ」
「いえいえこちらこそご馳走になっちゃって」とバイク乗りのお姉さん。
これで八方丸く収まった感じ。
yuko_nekoさんは牛の落とし物だらけのキャンプ場に泊まらなくて済んだし、ちび姫ちゃんとうちの娘たちは一緒に行動して一緒に遊べたし、パパとがっちゃんは独身の可愛いお姉さんと飲んで食べて楽しい時間を過ごしたし、バイク乗りのお姉さんは夜になって町まではるばる買い出しに行かなくてもご飯にありつけたし。ねっ。
「そんなこと言ってないだろ~」とパパ。
昼間はがらがらだった山田温泉キャンプ場だが、今見渡してみると、ぽつりぽつりとバイク乗りの小さなテントが張ってあったりする。
どうやらここはバイクツーリングなどする人たちに人気があるようだ。
そういう人たちは、オートキャンプのファミリーキャンパーと違って、昼間から火をおこしてバーベキューしたりせず、夕方遅くに到着してこぢんまりとしたテントを張り簡単な食事を食べる。
それはそれでいいけど、はっきり言ってこのキャンプ場は暗くなってから到着するのは危険すぎ。
暗いと見えないよ、自分のテントの下に牛の落とし物がでーんとあっても。