山田牧場あたりでは晴れていた空は谷間の七味に来てからは何だか嫌な感じに曇っていた。
車に気を付けて道を渡る。
渡ったところはちょうど大型旅館渓山亭の隣になる。
「←野天風呂」の看板があるがどう見ても三角屋根の一般民家。
玄関があって、その隣にこたつを置いた居間が窓越しに見えている。そしてこたつにはおばあちゃんが一人座っていた。
私は民家の前を通過することには無断侵入でもしているようで抵抗があったが、そうしないことには民家の隣に建つ野天風呂らしい建物に行かれないので仕方なく通らせてもらった。
こちらも三角屋根だが木造で、何となく共同浴場のような雰囲気の外観だった。
「野天風呂 お気軽にご利用下さい お風呂だけでも利用できます」と書かれている。
また、大人500円子供200円とも書かれている。
紅葉館館内のお風呂と共通で日帰り利用できるのかどうかはちょっと判らない。
私がその野天風呂の建物の前でうろうろしていると、民家のおばあちゃんが窓をがらりと開けた。
「お風呂かい?」
「はい、えーと、ここは紅葉館のお風呂ですよね?」
「えっ、? なんだって?」
「こうようかんのおふろですよね?」大きな声で一言一言くぎって発音してみた。
「ああ? ああ、そうだよ」
「宿泊者なんですが、入れますか?」
「ああ?」
「こうようかんにとまっているんだけど、はいっていいの?」
「ええ?」
耳が遠いらしい。どうも会話が成り立たない。
「・・・もしかして、何か証明するものがいる?」
「ああ?」
「ゆかた、ゆ・か・た、着てこないと駄目?」
「ああ、そうしてくれりゃ私も何度もここに出てこないで済むよ」
あのねー。
流石にちょっと腹が立った。
最初からこういうシステムだと判れば浴衣を着て出てきた。
元々こっちのお風呂に入るつもりで部屋を出たわけでもなく、元々こっちのお風呂がどんなシステムになっているかも判らなかったわけだし。
そりゃ、浴衣とか何か宿泊者であることを証明するものが無ければ無料で入れるわけにはいかないだろうけど、「申し訳ないけど浴衣を着てくるとか何か証明できるものを持ってきてくれませんか?」ぐらいの言い方をしても良いんじゃない?
客商売とはとても思えない。
仕方がないのでいったん部屋に戻った。
ごそごそと浴衣に着替えている私を見て、yuko_nekoさんも身を起こした。
かくかくしかじかでーと説明する。
一度起きてしまったからと、yuko_nekoさんもお風呂に行きたいと言いだした。
じゃ、どうせなら二人で行こうか。