4.絶体絶命の壁
先頭はパパだった。
パパはどんなスポーツでもこなすタイプなので、普通に苦もなく滑り降りた。
二番手はちびすけレナだった。
小学一年生にしても飛び抜けて背の低い彼女は、パパに似て運動神経が良い。おまけに去年の春、一度スクールに入ってスキーを習ってからは、持ち前のチャレンジ精神と安定感のある足腰で、どんな急斜面も緩斜面と同じように淡々と滑ることができる。
レナはパパに付いてためらいなく降りていった。
後から聞いたら途中でお尻をつき、スキー板をストッパー代わりにしながらずるずると下まで滑り降りたという。
とにかく気が付いたらパパもレナも急斜面を滑り降りて、なだらかになった辺りで上を見上げていた。
三番手はカナのはずだった。
小学三年生のカナはぼろぼろ泣いていた。
「降りれないー」
・・・。
うん、気持ちは判る。
流石の自分も、自分だけなら何とか降りるとしても、カナを連れて降りる自信は無い。
どうすりゃいい。
さっきのゴンドラで下まで降りるか?
躊躇していると、後ろから別のファミリーがやってきた。
親は普通に滑り降り、小学生ぐらいの子供はどうするのかと思って見ていたら、これまたためらうことなく、やおらその子はスキーを履いたままぺたりと雪にお尻をつけ、そのスタイルのまま一番下まで滑り降りてしまった。
あっと言う間のことだった。
そうか、スキーで滑ろうとするから無茶なんだ。雪遊びのつもりでお尻で滑ればいいんだな。
幸い雪は柔らかそうだ。
これが凍り付いてざりざりになっていたら、お尻で滑るのもごめんだが。
「カナ、お尻で滑り降りよう」
カナはぶんぶんと首を左右に振る。
「嫌だ、怖い」
「板を外して滑り降りればいいよ」
このときの私の頭の中には、板を履いているから滑るのであって、靴ならそんなに滑らないだろうからそれほど速度を出さずに降りられるのではないかという考えがあった。
甘かった。
カナは自分で板を外したものの、下を見ると恐怖で身がすくむらしく、斜面に捕まりながらじりじりと上に移動していく。
私の立っている位置よりどんどん上に行ってしまった。
ま、待て、上に行ってもどうしようもないぞ。下においで。
「嫌、下に行くの怖い」
「ほら、ママの真似をして降りればいいよ。ママも板をはずしてあげるから」
これがまた失敗だった。
一度板を外すと、もう二度と板ははけなかった。
今立っている斜面自体があまりにも急なので、板が安定しないのだ。
しかも板を外したことにより、自分のストッパーが無くなってしまった。
斜面に体を押しつけてそれ以上下に行かないようふんばっているが、ちょっとでも身を動かすと、ずるずると下に滑りそうになる。一度滑り始めたら、たぶんカナを上に残したまま下まで滑り降りてしまうだろう。
そうなったらカナはどうなる?