3.海の見えない海の温泉
絶景に別れを告げて10時半、次は海に行こうと思う。
せっかく日本海が近いのだ。美味しい海の幸を食べたい。ついでに温泉も。
選んだのは
湯野浜温泉。
湯野浜温泉にはホテル宮嶋に有名な海の見える露天風呂があるはずだ。だがガイドブックには立ち寄りに関する記載が無い。
「もしかしたら立ち寄りを受け付けていないかもしれない」
「イマドキそんなことを言ってられないんじゃないの?」とパパ。
「いや…山の温泉と違って海の温泉は気位が高いから」
海って山と違って海産物など美味しいものは沢山あるし、交通の便はいいし、黙っていても客が来るから同じ東北でも栗駒のようなわけにはいかないかもしれない。
鶴岡市内を抜けて、クラゲを沢山飼っているという加茂水族館の近くで海にぶつかり北へ折れる。小さな漁港などを見ながら海沿いの道を行けば、ビーチの向こうに聳えるのはランドマーク鳥海山。
湯野浜温泉に着いて、宮嶋はすぐ判った。海に近い目立つ建物だ。入り口の瀟洒な感じに既に気後れ。これは無理そうだなと思いつつロビーで立ち寄りについて伺うと、案の定やっていませんとのこと。その代わり、すぐ後ろに立っている宮嶋の別館、
濱福というところで立ち寄り入浴を受け付けているからと聞き、とりあえず行ってみることにした。
ここでのもう一つの目的は美味しい磯料理。
濱福で昼食も取れるか聞いてみたら、これまたご予約のお客様のみですと来た。ダブルパンチだ。
濱福のお風呂は地下だった。
いや、温泉は見晴らしの良い最上階などに汲み上げればたいがい循環などになってしまうのは判っている。それでも見晴らしの良い露天風呂に入りたい日というのはあるのだ(邪道?)。せっかく海に来ているのだから、海の見えるお風呂に入りたいなぁ…。
それはさておき、他に誰も入浴客がいないから貸切状態なのは有難い。男女は入れ替え制らしく、このときは男湯が大浴場、女湯が小さめの檜の湯と祭りの湯の二つとなっていた。レナがパパについていったので、ママはカナと行くことにした。
けれどカナが入りたがらない。今はお風呂に入りたくないと言う。仕方ないので脱衣所で待っていていいよと言って、とりあえず檜の湯に向かった。この三つの浴室は隣接しているが脱衣所は別だ。
地下なので薄暗い。真昼間だからもう少し採光の良い明るい浴室がいいななどと自分でも文句たらたらだ。こういう旅館だからもしかしたらつまらない循環のお風呂かもしれないと入ったら、案外良いほうに裏切られた。
檜の香りに混じって弱い海水風の臭い。うす甘い塩味。底のほうには白い湯の花がかなり沈んでいる。なかなかどうしてよく温まる湯だ。
熱くないよ、おいでよ、と言ってもカナは来ない。やっぱり温泉にばかり連れ回しすぎたかな。これからは立ち寄りで温泉に入るというと、毎回嫌だと言われちゃうかな…と心配になった。
女湯が二つあるならもうひとつも入ってみようと、ゴム入りバスタオルで移動してみた。祭りの湯というのは要は圧注浴の装置のついたお風呂だった。浴槽の大きさは檜の湯より少し大きい。こちらは循環仕様でさっさとあがってしまった。
まあ、悪くは無いけどもう一度入りたいと思うほどのお湯ではなかったな。