5.鄙び系美人湯 羽根沢温泉
もと来た道へ戻って、更に先へ進めば、目指す温泉はもうすぐだ。
羽根沢温泉。
途中の道にも「美人湯」の表示がある。
鳴子辺りで見た感じの、かなり古びた旅館が何軒か道の両側に並んでいた。確か共同浴場があったはず…と思って、中心地と思われる駐車場に車を停めて、通りかかった岡持ちの人に尋ねてみたら、駐車場の目の前に
羽根沢温泉集会所と書かれた建物が建っている、その下だと教えてくれた。
集会所と川との間に細い道があったので、歩いて様子を見に行くと、あったあった集会所の建物の一部のような感じで、小ぢんまりとした共同浴場があった。入り口には大人200円、子供100円と書かれた料金箱があり、出入り口からして男女別。ドアを開けるといきなり小さな脱衣所、そして薄暗い小さな浴室へと続いている。
車に戻ってパパに相談。
子供たちはもう絶対入りたがらないに違いない(誘い方によってはレナは入ると言うかもしれない)。せっかく来たから大人だけ交代で入りに行くか。
行っていいよと言われたのでタオルを持って一人、いそいそと出かけた。
200円を入れて、脱衣所に入る。先客が一人いらした。入らせてもらってよろしいですか?と声をかけて浴室に足を踏み入れた。
不思議な淡い甘い臭いがする。掛け湯をすると思ったより熱くなかった。かなり熱い湯なのではないかと想像していたのだ。今朝、
滝乃湯に入ったから特にぬるく思えるのかもしれない。
とろとろとしたお湯で、入り口から見たときは浴室が暗いので黒っぽく見えたが透明らしい。湯面の臭いは癖になりそうなオイル臭で、湯口の辺りでは少しゆで卵の臭いもある。味はお茶漬け風。
けれどやっぱりここのここたるところは、肌触り。お湯の中で特ににゅるにゅるすると言うわけではないが、湯から出て腕などをなでると、すごくぬるぬるする。これは、にゅるにゅるではなく、本当にぬるぬるなのだ。面白~い。
そそくさと出る私に、先客の地元の方は「もう出ちゃうの?まだあったまってないんじゃない?」と(山形弁で)仰った。
既に鳴子で入浴してきて、今、車で子供たちが待っているという事情を伝えると、笑って「どこから来たの?」と聞かれた。
「東京からです。どうしてもここのお湯に入りたくて」
「ここはいいよぅ、一番いい温泉だよ」
うん、地元の方が自信を持ってそう仰る温泉、それが日本一。
結局パパは入らず、先を急ぐことにした。いつも家族で入っていたから私だけが入ったっていうのは初めてだったかもね。