5.小安峡の案山子
そそくさと服を着て、遊歩道を登り始める。さよなら
川原毛大湯滝。
こうしている間にも新たな入浴客がひっきりなしに現れる。人気なんだねぇ。女性はほとんどいない。大多数が男性だ。子供づれは季節外れなこともあって私たちだけだった。
カナは帰りもちゃんと自分で歩いたが、レナはパパに抱っこしてもらって登った。パパがゆっくり入れなかったねと言う。やっぱりここは夏に来るべき場所なんだろう。紅葉の時期などそれは綺麗だろうけど、とても寒くて入れないだろう(それでも入る人がいるかもしれないが)。
カナの手を引いて遊歩道を歩いたが、温泉で妙に肌がつるつるになっていて滑りそうなのが笑える。
さて時刻はお昼過ぎ。猛烈にお腹がすいている。
パパがどこでお昼にする?と聞く。
私は小安峡はどうかと言った。
小安峡~?それどこ?とパパ。元来た道を当然戻ると思っての発言だ。また更に遠くへ連れて行かれるかとびびっているらしい。
いや、ここまで来ちゃったんなら、いっそ108号線じゃなくて一本北の398号線を使って帰っても遠回りにならないんじゃないかと思って…。
予定外のことながら車は小安峡を走っていた。ここもあちこちで蒸気が湧いている。本当にこの辺りは地球の息吹が感じられるエリアだ。
目指す店は案山子と言う。雑誌に、ランチのみ、定食一種類のみだが、地元の山菜を使った料理が自慢と載っていたからだ。
案山子は驚くほど洒落た店だった。山の中とは思えないほど細部まで気を抜かず綺麗にディスプレイしてある。隣がやはり洒落た小民具屋兼珈琲屋で、同じ経営らしい。
定食をふたつお願いしたら、出てきたのは古米のご飯、温かい稲庭うどん、地場産のミズやキノコを使った料理だった。しかも子供用にうどんだけ別にふたつつけてくれた。見た目も綺麗でとても美味しい。レナはミズとキノコにはまってわき目も降らずに食べている。
今日は川原毛大湯滝への道は果てしなく遠く、しかも寒かったりカナが泣いてほとんど入れなかったりで踏んだりけったりだったが、それも全て忘れるほどこのランチは正解だった。
これからどうする?と聞くと、「一風呂浴びて帰ろう」と予想した答えが帰ってきた。お腹が一杯になった子供たちが寝てしまう前に辿り着ける場所がいい。そうしたらここ。小安峡温泉の外れ、
大湯温泉阿部旅館。