あー、さっきの地図の説明、もうちょっと真剣に聞いていれば良かった。
浴室棟の受付に誰かいれば聞けると思ったんだけど、施設の人どこにもいないし。
男湯の露天風呂は地図で見てもかなり離れていたけど、女湯は浴室棟とくっついていたようにも見えたから、もしかしたらこの大浴場の中から出られるのかな?
いったんは脱いで浴室に入ったが、湯気でぼんやりしていてもやっぱりここから露天風呂に出るドアは見当たらない。
あまり時間は掛けられないし、どうしようとおろおろ。
結局お風呂に入らないでまた服を着る。
大浴場の外に出て、ふと気が付くと露天風呂の表示。それに従ってドアを開けるとそこは・・・
露天風呂じゃなくてただの外だった。あれ?ここ、見覚えある。さっき駐車場から来た時、裏口だと思った場所。
そこから外に出ても結局駐車場しか見えない。
もうー、いったい露天風呂、どこなんだよー。
もう一度ラウンジの方に戻りかけたところで別の露天風呂の表示を見つけた。
ああっと、七実の湯と睦実の湯?
そこが正解だった。
七実の湯が女湯露天風呂で、隣の睦実の湯が貸切露天風呂だった。
やっぱり脱衣所も別なんだ。いったん服を着ないと内湯と露天を行き来できないんだ。
ようやく待望の妙見石原荘の露天風呂と御対面。
雑誌などで見ていた川に張り出した露天風呂は男湯の方だったみたいで、思っていたのとは違う形だったけどセンスの良い長方形の木の浴槽。
脱衣スペースは本当に取ってつけたように露天風呂の隅にあるだけで使いにくいと感じたが、とにかくお風呂のロケーションはいい。
先客が一人。関西からの旅行者で、泊りではないがもう何度も妙見石原荘に来たことがあると言う。
目の前は天降川。それもただ流れているだけでなく、ところどころ逆巻く渦が見える場所にこの露天風呂はあって、湯船からの眺めも飽きない。
先客の話によるとこの川のところどころでお湯が湧いていて、流れの中に温かいところもあるのだとか。
木の浴槽に合う四角い木の湯口から滔々とお湯が注がれ、湯船の中は少し白く濁って見える。
温度はほぼ適温。調節しているかのように心地よい。
品の良いわずかな金属臭があり、入っているといつの間にか細かい泡が全身に付いている。
ふと、降り注ぐようにさあっと日が差してきた。
空港から、いや出発した早朝の東京から今までずっと雲の中にいたのが、今初めて日差しを感じた。
露天風呂の囲いの上に赤く染まった紅葉が張り出していて、そこに光が当たると本当に綺麗。
紅葉を眺めているともう一人入ってきた。やはり今朝の飛行機で着いたばかりの旅行者だと言う。
お風呂の中で三人でおしゃべりしていると、時間が不安になってきた。私があれだけ迷ったわけだし、地図で露天風呂の説明を聞いていないパパは、特に離れた所にあるはずの男湯露天風呂にたどり着けなくて、もうさっさと上がって待っていたらどうしよう。
先客はのぼせて涼むとすぐに足が冷えてくると何度も出たり入ったりを繰り返していたが、私はもう十分にあたたまった。
内湯も入ってみたかったので、二人に挨拶して先に上がることにした。