子連れ家族のための温泉ポイント
- 温度★★★★★ 泉質★★★★★ お湯は適温
- 設備★★★★☆ 雰囲気★★★★★
子連れ家族のための温泉ポイント
妙見石原荘は鹿児島旅行を企画するより以前から、名前だけは知っていた。
九州の温泉に疎い自分でも、雑誌に特集されたり温泉サイトなどで話題に上ったりしていたのを十数年前から見ている。
当時は「みょうけん温泉」が読めなくて、「たえみ温泉」だとばかり思っていた。
最初は旅行最終日の宿泊を考えていたが、あいにくと希望の日程に希望の部屋が空いていなかった。
日程をずらすには鹿児島空港から距離が近すぎるし、さすがに高額な露天風呂付き客室は予算オーバーだったので、旅行初日に日帰りで訪問した。
妙見石原荘は和風旅館というわけではなく、和洋折衷というか、和モダンというか、敷地内にどことなく中世ヨーロッパのような雰囲気を持つ石蔵の客室などもある。
玄関前にいきなり車で乗り付けてもいいものか迷いながら車を停めると、早速宿の人がとんできて、本日のお泊りでしょうかと慇懃に尋ねてきたので、日帰り入浴を希望していると答えると、どうぞ受付は本館の中ですとさししめされ、取り急ぎ夫を置いて私だけ車を降りた。
ガラス張りの自動ドアの中に入ると、決して豪華というわけではないが、こだわったデザインを感じさせるロビーがあった。
受付はホテル風な感じで、鹿児島にしては別格の日帰り入浴料一人1,200円を払うと、敷地内の地図を出してお風呂の説明を受けた。
「現在地がここで、いったん車で道路に出てもらって少し戻るとバス停があるのでそこを曲がって下さい。すると駐車場がありますので、駐車場の先の天降殿という建物にお風呂の受付がありますので、そこにチケットを出してください。誰もいないことがありますが、その時はカウンターにチケットを置いて、そのまま入浴してもらって結構です。大浴場がここで、女性用の露天風呂がこちら、男性用の露天風呂がこちらになりますが、男性用の露天風呂はまだ清掃中ですので、あと10分ぐらいしてからご入浴ください」
車だとぐるっと回る感じだが、宿泊者は通路から直接行かれるのだろう。駐車場のある浴室棟は裏口という感じだった。
というか、本当に裏口?
「いや、そこは違うだろう」と夫。温泉棟に入る入り口はもうちょっと先のようだ。
確かに建物に沿って進むと大きくは無いが綺麗な入り口があった。
そこは湯上りラウンジという場所で、壁のほとんどがガラス張り、籐の椅子と洒落たテーブルを何組か置いたリゾート地のカフェにもバーにも見えるスペースだった。
窓の外には紅葉。そしてたぶん窓に近寄れば渓流も見えそう。
紅葉!?
12月も終わり近いのに。
ラウンジはとても綺麗で洒落ていてでも誰もいなくて、カウンターも無人だったので本館の受付で聞いた言葉を思い出し、私はカウンターにチケットを置いて浴室の方へ進んだ。
いそいそと廊下を進み、女湯とある戸を開ける。
明るく清潔そうな脱衣所。湯気でぼんやりした浴室の中には先客がいる模様。
あれ? ところで露天風呂はどこなんだ?
いったんは脱いで浴室に入ったが、湯気でぼんやりしていてもやっぱりここから露天風呂に出るドアは見当たらない。
あまり時間は掛けられないし、どうしようとおろおろ。
結局お風呂に入らないでまた服を着る。
大浴場の外に出て、ふと気が付くと露天風呂の表示。それに従ってドアを開けるとそこは・・・
露天風呂じゃなくてただの外だった。あれ?ここ、見覚えある。さっき駐車場から来た時、裏口だと思った場所。
そこから外に出ても結局駐車場しか見えない。
もうー、いったい露天風呂、どこなんだよー。
もう一度ラウンジの方に戻りかけたところで別の露天風呂の表示を見つけた。
ああっと、七実の湯と睦実の湯?
そこが正解だった。
七実の湯が女湯露天風呂で、隣の睦実の湯が貸切露天風呂だった。
やっぱり脱衣所も別なんだ。いったん服を着ないと内湯と露天を行き来できないんだ。
ようやく待望の妙見石原荘の露天風呂と御対面。
雑誌などで見ていた川に張り出した露天風呂は男湯の方だったみたいで、思っていたのとは違う形だったけどセンスの良い長方形の木の浴槽。
脱衣スペースは本当に取ってつけたように露天風呂の隅にあるだけで使いにくいと感じたが、とにかくお風呂のロケーションはいい。
先客が一人。関西からの旅行者で、泊りではないがもう何度も妙見石原荘に来たことがあると言う。
目の前は天降川。それもただ流れているだけでなく、ところどころ逆巻く渦が見える場所にこの露天風呂はあって、湯船からの眺めも飽きない。
先客の話によるとこの川のところどころでお湯が湧いていて、流れの中に温かいところもあるのだとか。
木の浴槽に合う四角い木の湯口から滔々とお湯が注がれ、湯船の中は少し白く濁って見える。
温度はほぼ適温。調節しているかのように心地よい。
品の良いわずかな金属臭があり、入っているといつの間にか細かい泡が全身に付いている。
ふと、降り注ぐようにさあっと日が差してきた。
空港から、いや出発した早朝の東京から今までずっと雲の中にいたのが、今初めて日差しを感じた。
露天風呂の囲いの上に赤く染まった紅葉が張り出していて、そこに光が当たると本当に綺麗。
紅葉を眺めているともう一人入ってきた。やはり今朝の飛行機で着いたばかりの旅行者だと言う。
お風呂の中で三人でおしゃべりしていると、時間が不安になってきた。私があれだけ迷ったわけだし、地図で露天風呂の説明を聞いていない夫が、特に離れた所にあるはずの男湯露天風呂にたどり着けなくて、もうさっさと上がって待っていたらどうしよう。
先客はのぼせて涼むとすぐに足が冷えてくると何度も出たり入ったりを繰り返していたが、私はもう十分にあたたまった。
内湯も入ってみたかったので、二人に挨拶して先に上がることにした。
内湯はさっきいったん入りかけたあそこだ。
窓は広く取られているが、景色は露天風呂を見た後だと湯気であまり見えないなという印象。
それよりこちらの特徴は白い浴室の壁一面に表現された洋風なレリーフ。
湯口すらもそのレリーフのモチーフのひとつとなっていて、そこから源泉が流れ落ちている。
お湯は露天風呂より白濁して青白く見えた。
泡も露天風呂よりずっと多く、湯口の下で両掌を合わせるとその間でつぶれる感触がある。思わずその感触が楽しくて、何度も掌で挟んでつぶしてしまう。
泡のせいで肌を滑るような感覚もある。
味はじゅわっとして美味しい。
本当は露天風呂も内湯ももっとゆっくり入りたかったが、後ろ髪を引かれるように上がると、ちょうど湯上りラウンジで夫に追いついた。
ほぼ同じようなタイミングで上がっていたようだ。
男湯の露天風呂に付いて聞いたら、私と違って迷わず辿りつけたらしい。
でも場所は駐車場の先で、本当に丸見えみたいなところだったよと。
露天風呂に行った時は清掃が終わってお湯を貯めているところだったそうだ。
ちなみにこの男湯の露天風呂は、足元湧出泉で日帰り入浴時間が終わった後は混浴になるらしい。つまり女性が足元湧出の露天風呂「椋の木」に入ろうとしたら、泊るより他に無いってことだ。
うーん残念。