4.雪の中の山口露天風呂
カナが入ると言ったのが決めの一手となった。
がちがちと歯を鳴らしながら脱衣所に入った。ちょうど湯上りの女性が一人。
「どうでしょう、上がった後、温まっていますか?」
「とても温まるわよ。熱い浴槽と温い浴槽があるから交互に入る感じね」
えっ、本当に?
寒い寒いと連呼するカナを脱がせてお風呂に向かうと、もうパパとレナは入っていた。
熱いお湯に身を沈めると…はー、極楽ぅ。
信じられない。
地獄から一気に天国まで突き抜けちゃったみたい。
さっきまでの芯まで凍える寒さが嘘のようだ。あのとてつもない寒さすら、この露天風呂に気持ちよく入るための試練だったかのようだ。
昨日の
万座温泉もこれ以上のお風呂は無いだろうと思わせるレベルだったけど、この四万温泉山口露天風呂は、ごくシンプルに凍てつく中、お湯で体を温めるという本来の目的として、これ以上はないと思う幸せなお風呂だった。
ああ、なんていい湯だろう。
いつの間にやら雪は激しくなり、四万川も対岸の宿も白く白く煙っている。
山口露天風呂には4つの浴槽がある。屋根の無い川沿いの二つが温く、脱衣所に近い二つが熱い。
温い方の縁に、誰が作ったのか小さな雪だるまがひとつ置いてあった。カナもレナも大喜びで跳んで行った。熱い方に入りなさいとパパが呼んでもどこを吹く風。こっちは温い方なんて行く気にもなれないのに。
とても温まる湯だった。
さらりとあっさりしているが、あっという間にぽかぽかになる。乾くとすこしつっぱるようなひりひり感がある。
さっき脱衣所で教えてくれた人の言うとおりだった。上がった後はまるで寒くない。本当に信じられない。お湯に入る前は全身凍りつきそうだったのに!!
大人が上がっても、子供たちはまだ温い浴槽にはまっている。
そろそろ上がりなさいと声を掛けて、いったん熱い浴槽で体を温めさせる。カナはコートを着たがらないくらいだった。あんなに寒がっていたのに。
私たちが山口露天風呂に入っている間に雪はしんしんと降りつもり、いつの間にか道も車の上も真っ白になっていた。