11時45分。
何時まで経っても出国審査の列が短くならないようなので流石に諦めて列に並ぶことにする。
重たいスーツケースを引っ張って遅れを取っていると、私の所に係員がとんできてぺらぺらと話しかけられた。
「えっ?」
「メンゼイヒン モッテル?」
「ノ、ノー」
何も持ってないよ。
吃驚した。いきなり話しかけられたから何かまずいのかと思った。
先に並んでいたパパにそのことを話すと、彼は列を離れさっき私に話しかけた人のところに行った。何か受け取っている。
「何をもらってきたの?」
「出国カード。別に出国審査のところでもらえるけど暇なうちに書いちゃおうと思って。あの人のところに行ってさ、その手に持っているカードをちょうだいって言ったら、笑ってJTBの人だけだよって言われちゃったよ」
列は長かったが私たちがほぼ最後だったようで、もう後ろには一人旅らしい男性が並んだきりそれ以上は伸びなかった。
列に並び始めてすぐに、さっきとは別の女性係員がやってきて、「エキタイ、モッテナイ?」と聞いてきた。
「ノー」と答えると、ファスナー付きのビニール袋を示して、「ケショウヒン、クチベニ、マスカラ、モッテナイ?」と重ねて聞いてきた。
「ノー」
自分のバッグを開けて、ジップロックに入れたチューブの痒み止めを見せる。化粧品は全てスーツケースの中だ。
彼女は私の前に並んでいる女性も次々に捕まえては同じことを聞いていた。
私のすぐ前に並んでいた人はノーと言ったきりだったが、そのもうひとつ前に並んでいた若い女性がバッグから化粧品を出すと、係員は持っていた袋を渡してその中にしまわせた。
これだけ騒がれているのにまだそのまま液体を持ち込む人がいるんだ。たぶん悪気はないんだろうけど、行きにもチェックされているはずだから知らないことはないだろう。
特に女性の化粧品はそういうことが多いようで、係員の方でも集中的にチェックしている様子。
これで終わりではなくて出国審査のカウンターに着くまでに、また別の係員が来て同じことを聞いて回った。
こちらも「ノー」と同じ言葉を返す。
暇だからかもしれないが成田空港より
ケアンズ空港の方が細かくチェックしていた。また、袋を準備してこなかった人には配っていたようだ。
ゴールデンウィークだから子連れもしばしば見かける。
私たちの少し前にも同じくらいの年の女の子を連れた家族がいた。
二人は大事そうにコアラのぬいぐるみを抱えている。
やっぱりあれだよね、コアラ。
もしくはカンガルー。
それに比べてうちの娘たちと来たら・・・二人とも大事に抱えているのは両生類のゲッコー。
絶対何か違う。
パパがぼそりと「将来、この子たちが爬虫類をペットにするって言い出したらどうしよう」と呟いた。