食べ物を食べ終えて、ふと振り返ると、カフェの後ろ、格納庫の正面のロータリーにたった今空から降りてきたと言わんばかりの黄色い
マイクロライトが見えた。
まだエンジンは止まっておらず、ゆっくりとアスファルトの上を動いている。
「今戻ってきたんですか? 音も聞こえなかったし全然気が付かなかった」
willieさんも気が付かなかったようだ。何時の間に来たんでしょうと言っている。
マイクロライトはハンググライダーに座るところとエンジンとプロペラをつけたような乗り物で、この黄色いのは二人乗りのようだった。
さっきのワーホリの女の子も店から出てきてパイロットに話しかけている。
パイロットが降りてきたので私が思わず「わー、かっこいいですね」と口にすると、ワーホリの彼女はへーという顔をした。
「彼はこの農場の次男坊なんですよー」
いや、あのね、かっこいいって言ったのはパイロットさんのことじゃなくて、マイクロライトとマイクロライトを運転していることを含めたパイロットさんのことでぇ、まあ、誤解でもなんでも別に問題ないんだけど。やけに焦る私。
「今日は長いフライトだったみたいで半日出かけていたんですよ。せっかく戻ってきたところだから乗ってみません?」
「えっ」
「20分で保険も入れて90ドルちょっとですよ。10分のエクスプレスもあります」
「
ミッチェル湖までなら飛んでみたいんですけどね」とwillieさんが言った。
「ミッチェル湖までだと40分は必要ですね」
「私の友達がここで免許を取ったんですよ」
「そうだったんですか。彼(パイロット)はお客さんを乗せて飛ぶだけじゃなくて、最近指導する資格も取りましたからねぇ。あなたも如何ですか? こちらにお住まいなら免許」
「いや、免許を取ってもマイクロライト自体を買うお金が・・・」
「それは必要ですよね」彼女は笑って「マイクロライトを持っていれば、この農場に置かせてもらうこともできるんですよ」と教えてくれた。
私もマイクロライトに興味はあったものの、さっきも言ったように全然乗るつもりはなかった。そもそも
ジャイクスコーヒー農園に来たんだってマイクロライトに乗るつもりで来たわけじゃなかったし。
でも彼女が「今日はこんなに晴れていて風もないし絶好のフライト日和ですよ」って言うと、何だかこの機会を逃してはいけないような気がしてきた。
マリーバは晴天率が高いが、いつだってここまで完璧な青空とは限らない。
だいたいさっきまで留守だったマイクロライトとパイロットがちょうど私たちのいる時間に戻ってきたことだってタイミングが良すぎる。もし今パイロットが一人しかいないとしたら、乗るつもりで来たってすぐに乗れるとは限るまい。
今だって、もしカフェにいる他のお客さんが手を挙げて、ハイハイっ、私が乗りたいですって言ったらそれまでかもしれない。
「・・・パパ、乗ってもいい?」