移動はwillieさんの車にまかせきりなのでどの道を通ったのか定かではない。
だから今、この文章は地図を見て書いている。
恐らく車はマランダからマランダ・アサートンロードを北上し、ヘイスティロードに突き当たったところで左に曲がったんじゃないかと思う。
この道は途中でケネディハイウェイと交差するが、そのまま直進すると
アサートンの南にあるヘイスティー湿地の方へ向かう。
「オーストラリアには国立公園が沢山ありますが、その中で、もしかしたら最も小さい国立公園がここなんじゃないかと思います。ヘイスティースワンプ・ナショナルパーク。池というか沼というか、そこだけが国立公園に指定されています」
ヘイスティー湿地に入る道は未舗装だった。
道の入り口の電線に何かちょっと大きめの鳥がとまっていた。
「あっ、ワライカワセミですよ」
うん判る。あの平たい頭。確かにクッカバラだ。
写真に撮る間もなく飛んでいってしまった。
「今のワライカワセミはアオバネでした。ちょっと珍しい方のワライカワセミです」
未舗装道路の両側に背の高い葦のような草が生い茂っている。
「フヨウチョウはよくこういう草の上の方にとまっているんですよ。こんな細い草でも器用につかまることができるんです」
フヨウチョウというのは英名をRed-browed
Finch、又の名をRed-browed
Firetaileと言って背中と羽が黄緑色で喉からお腹が淡い灰色、目の周りと尾羽根の辺りが朱色、特にその目の周りはちょうどアイマスク状に赤くなっている小鳥だ。
カナとレナに日本を出発する前に、オーストラリアで一番楽しみにしていることは何と聞くと、毎日「鳥先生にいろいろな鳥を見せてもらうこと」と答えていた。
二人にはwillieさんのことを「鳥先生」と紹介していた。
「でも鳥先生にいろいろ教えてもらっても、英語だと判らないよ」と心配したカナ。
「大丈夫。鳥先生は日本人だから日本語で教えてくれる」
「あー良かった」
そんな二人が楽しみにしていたことのひとつはフヨウチョウを見ることだった。
家にあったハーバートン(
アサートン高原の町の一つ)・ビジターセンターのリーフレットに三羽並んだフヨウチョウの写真が載っていて、それがとても可愛らしかったのだ。
「むくむくの鳥ちゃん」と二人はフヨウチョウのことを呼んだ。
部屋の隅に二人でしゃがみ込んで何をしているのかと思ったら、「今、むくむくの鳥ちゃんの真似をしているところだよ」と答えたこともあった。
でも残念なことに今日は葦の上にはフヨウチョウは来ていないようだった。
それに後部座席ではレナが寝ていた。
どうも最近は車に乗る度に寝ているようだ。いつものように酔い止めは飲ませたけれど、気持ちが悪いと言われるよりは寝ていてくれた方がいい。