10.帰路の窓から
帰りの飛行機の中のことはあまり思い出したくない。
嫌なこと続きだったからだ。
とにかく席が最悪。
右側の最後尾で、最後尾ということは、食事は遅いしリクライニングができない。
もう、同じ料金を払って乗ったとは思えない待遇なのだ。
ゴールデンウィーク最終日だから当然席は満席。移動できるわけもない。
子供連れも多い。この点はホッとした。
私たちの隣には、この日には珍しいオージーの子連れが乗っていて、長い金髪のお母さんはぐずる子供の世話に四苦八苦していた。
パパが見かねて「鶴を折れる?」
とりあえず手元のレシートでちゃっちゃと鶴を折って渡した。
金髪のママはありがとうと受け取って、鶴で子供をあやし始めた。
少しでも役に立てればいいけど。
飛行機が飛び立つと、傾いた眼下に緑の半島と珊瑚礁の海。
思えばもう何回も
ケアンズ-成田線に乗っているのに、一度も左側の席になったことがない。
いつも海側の右側だ。
今日はあまり天気が良くないので、海の色ももうひとつ冴えない。
それでも
グリーン島、アーリントンリーフ、ミコマスリーフ・・・次々と窓の下にエメラルドグリーンの珊瑚礁があらわれては消えていく。
ぽつぽつとリボン状のリーフがまばらになり、ついには海上が濃淡のない青一色になると、ああ、これで完全にケアンズから離れてしまったと思った。
あとはひたすら海また海。