ポートダグラス楽園日誌
「太陽に愛された日曜日 -ポートダグラスのサンデーマーケット-」





6月1日(日)

 泣いても笑っても今日が最後だ。
 明日はもう、朝部屋を出て日本へ帰るだけだから、ポートダグラスで好きなように過ごせるのは今日が最後の日になる。

 朝から雲ひとつ無かった。
 ここ三日ほどぐずついていた空はすっかり機嫌を直し、底抜けに明るい笑顔を振りまいている。この晴天は神様がくれたサンデーのサニーディ。予報では明日からまた天気は下り坂、週間予報にはずっと雲しか書かれていなかった。
 この地の日差しはとても強い。来たその日から感じたが、日本よりずっと太陽が明るく、日向と日影のコントラストは目が痛くなるほどだ。
 加えて空が広い。
 おそらく日本では、平地では建物が密集し、建物が無いところは山地になり、空が狭く感じるのだろう。けれど海や北海道の平原に行っても、やはりこれほどの空の広さは実感したことが無かった。

 一昨日レンタカーを返してしまったから、今日はどこへ行くにも別の交通手段を考えなくてはならない。
 パパはレンタサイクルなど考えてみた。
 風を切ってオーストラリアの大地を走る…かっこいいじゃないか。

 リッジスの受付に行き、チャイルドシート付きの自転車を二台借りてくる。大人用二つ、子供用二つのヘルメットも忘れない。
 自転車の横に立って嫌な予感…。
 あの…この自転車、私には大きすぎるんですけど…。

 だってサドルにまたいで全然足つかない。こんなの漕げないよ。日ごろ乗っている俗に言うママチャリと違って、スポーツタイプだからハンドルは横に平行だし、またぐところもくびれていない。こんなのどうやって乗ったらいいの?
 パパが「そんなに運動音痴だとは知らなかった」と意地の悪いことを言う。
 しかも何?、日本の自転車と違ってペダルは後ろへがらがらと回転せず、後ろにこぐとブレーキがかかるとか、ハンドルのブレーキが左右じゃなくて右にしかついていないとか、何だってこんなに仕様が違うの?

 運動神経のよいパパは、試しにレナを載せてすいすいと漕いでみせる。
 私はまたいだまま一漕ぎも出来ず、泣きそうになる。
 ママ、どうして自転車乗れないの?とカナが怪訝そうに顔を覗き込む。今カナは、自転車の補助輪を取るために日本で特訓中だ。怖がらずに足をはずして思い切って漕いでごらんと日ごろ偉そうなことを言っている母がこのざまだからだ。

 日本では日常的に子供を前と後ろに一人ずつ乗せて自転車を漕いだりしている私だ。体格の良いオージーサイズの自転車に乗れないくらいで運動音痴呼ばわりされるいわれはないと思っている(実際運動神経は無いが)。
 自分ひとりならたぶん少し練習すればなんとかなるだろうと思う。でも今足がすくんでいるこの状況で、とてもじゃないけど子供を後ろに乗せてなんて走れない。
 パパはせっかく借りてきたのに…と言うが、私が漕いだら多分後ろに乗った娘は血まみれの大惨事になるよと言ったら流石に諦めもついたようだ。

 「じゃパパがどちらか一人を乗せて自転車を漕いでいくから、ママはもう一人を連れてバスに乗ってね。待ち合わせ場所はマクロッサンストリートのコールズ前」

 ママとバスに乗る羽目になったレナはふくれっつら。

 ポートダグラスを走る路線バスは、ケアンズなど主要な町と結んでいるコーラルコーチとは別に、街の中だけをぐるぐる回っているローカルの路線バスがある。車体の横にLOCALと書かれていて、TOWNと表示が出ていれば、町外れのレインフォレストハビタット方面から町の中心地マクロッサンストリート方面へ、OUTと表示が出ていれば、マクロッサンストリートからレインフォレストハビタット方面へ向けて走っている。
 本数は昼間なら5分から15分おきくらいでかなり便利。運賃は前払いで乗るときにドライバーに行き先を告げれば、切符を切って、その行き先のバス停で停車してくれる。
 リッジスリーフリゾートの場合はホテル棟とヴィラで入り口が違うので、その両方にバス停がある。

 5分も待たずにすぐにバスは来た。
 車体にSun Palmsと書かれた大型観光バスだ。しかもなにやらExpressという表示も見える。
 一昨日ディナーを食べにみんなでポートダグラスの中心部に行ったときはもっと小柄なマイクロバスで、名前もCoral Reef Coachesじゃなかったっけ。
 でも間違いなくLOCALの表示と、TOWNの表示が出ている。これでいいはずだ。…とはいうもののやはり不安がよぎる。Expressって…まさかケアンズの町までノンストップで連れて行かれたりしないだろうな?
 一応ドライバーに聞く。
「TOWN行き?」
「Yes,」
「本当にポートダグラスのタウン行き?」
「yes,」
 そして片道か往復か聞いてきた。少し考えて往復切符を買った。一昨日は片道で一人2.5ドル。今日は往復で4.5ドル。少し割引があるのか…。



 途中の道で、路上を走るパパとカナを見られるかと思ったが、もう先に行ってしまったらしい、到着するまで姿は無かった。

 ポートダグラスを半島の先に向けて貫くポートダグラスロードは、海の手前でマクロッサンストリートという目抜き通りにぶつかる。右へ行けばすぐビーチだし、左へ曲がれば土産物屋や観光案内所、洒落たレストランなどが並び、ディクソン湾へ至る。この道沿いに待ち合わせ場所に指定したスーパーマーケットのコールズもある。
 バスは左折し、マクロッサンストリートに入ってすぐ一度停車、まだコールズまでは少し距離があるので次の停留所にしようと思っていたら今度はコールズを通り過ぎ、湾に面したワーフストリートまで行ってようやく停まった。
 いいや、少し歩いて戻れば。
 ちょうどここからは正面に芝生の広がるアンザック公園が見える。日曜日なので賑わっている。
 アンザックパークでは毎週日曜日に青空市サンデーマーケットが開かれ、今日はそれを目当てに私たちも来たのだ。

 コールズ前では既にカナとパパが待っていた。自転車はコールズの駐車場に入れたそうだ。「サンデーマーケットはすごい人出だったよ」と言うと、もう見てきたの?と言われた。


 左上 コウモリ傘の下は、アクセサリーとレースのワンピースを売るお店
 右上 カラフルなおもちゃ屋さん
 左下 瑞々しいフルーツが山盛り
 右下 ミニミニ・カーテンフィグツリー?の手前に蘭専門の花屋さんと、隣の青いテントの下では目の前で果物を搾ってジュースを飲ませてくれる。カナとレナも飲んだよ。


 暑かったけど帽子を忘れてきた。ああ、ここに素敵な帽子が売ってる。おそろいの麦藁帽子をパパに買ってもらうのはどう?
 ハンドメイドのカンガルー・ペンダントもこのマーケットで買ってもらった。カナとレナと一つずつ、オーストラリアの思い出に。

 先週の日曜日、車で通りかかったときは、ここはもっと混雑していた。そのときは知らなかったが、私たちがポートダグラスに来る直前に、この町ではCarnivale 2003というお祭りをやっていたのだ。先週の新聞にそのときの様子が載っていた。金曜日の夜にはマクロッサンストリートで仮装パレードが行われ、1万人ものお客さんが詰め掛けたと。新聞を飾る訪問者たちのスナップの中に、はるばる日本から来たお客さんとして、Sachiko & Mai という若い女の子などがにこやかに写っていた。

 マーケット会場と海に挟まれたところに、ブランコがあった。

(ポートダグラスのブランコの動画はこちらへ、別窓で開きます)
 市場の喧騒を背に、子供たちはブランコを漕ぐ。
 なんて素晴らしい眺め。空と海の青に吸い込まれそう。


 左手の桟橋の向こうに湾がある。右には灯台があるはず。
 最後に休日にこんな晴天を与えてくれて、神様感謝します。

 子供たちはブランコに夢中なので、大人は交代でマーケットを散策。
 古着、バッグ、手作り無添加ジャム、ビーチタオル、花、マッサージ処、古本、アロマショップ、八百屋…見ているだけで楽しい。ブーツにペインティングしたものを所狭しと並べてある風変わりなお店、コアラ、カンガルーに混じって出来の悪いテレタビーズやピカチュウまで並んでいる手作り豆粒マスコットのお店…。
 ケアンズまで出れば、まるで珍しくない日本人の姿なのに、ここでは東洋人は少ない。たまにいても、同国人ではない。カナとレナはとても人目を引き、ときどき「キュート」などと有難いほめ言葉を頂く。



 ポートダグラスにはもうひとつ、行かなくてはならないところがあった。

 海沿いのワーフストリートをマーケットと反対側に歩く。
 可愛らしいポリスステーションを過ぎると道は右へカーブして急な上り坂になる。かなりきつい傾斜だ。
 道の両側には熱帯植物が綺麗に植えられていて、ふと前をひらひらと誘うように青い蝶、ユリシーズが招いている。
 野生のユリシーズを見たのはこれで三度目だ。
 一度目はディンツリーのアレクサンドラ・ルックアウトで、二度目は南アサートン高原のミラミラ滝で。
 息を呑むほど美しい場所で必ず出会う。ということはこれから待っている景色も決して期待を裏切らないということか。

 坂の上で振り返ってみる。登ってきたので海もせりあがってきた。
 ここで左に曲がる。
 ここまでの道もきつかったが、曲がって驚く。更に傾斜は急になっている。子供たちはそろそろ泣き声になってきて、パパがカナを私がレナを背負って先へ進む。

 視界の悪い舗装路を汗だくになって登る。ときおり涼しい顔でオープンカーなどが追い越していく。レンタカーを借りている間に来るべきだったか…。
 やっと木々の間からちらちら海が見えるようになった。四日目にクルーズしたロウ・アイルズがよく見える。
 耐え切れなくなって子供たちを下ろした。少し傾斜はゆるやかになっている。しかしどこまで登れば終点なのか判らない。子供たちにはオジギソウが生えているよと時々遊ばせながら騙し騙し登らせた。

 正面にパーキングが見えてきた。
 パパとカナはもう先に着いている。ベンチに座っているのが見える。あともう少し…。


 この絶景を見に、登ってきたのだ。
 視界の彼方まで続く白いフォーマイルビーチ。ここはアイランド・ポイント・ルックアウト。ポートダグラスで最も景色の良いところ。


 少し下って反対側を臨めば、ちょうどディクソンインレットに停泊する美しいヨットの数々。
 それにしてもくたびれた。何度かもう、登るのを諦めようと思ったくらいだ。

 パパが昼過ぎには自転車を返却しないといけないと言う。
 今度こそポートダグラスの洒落たカフェでオープンテラスに座って優雅なランチをと思ったが、それはついに叶わない夢らしい。
「ホテルに戻ってお昼にしようか」
「どうせなら、プールサイドで」
「あっ、それって最高」
 もと来た道を下って、帰る前にコールズで軽くショッピング。パパは職場用にTimTamを7箱も買った。



 さて、帰りはまたも別々だ。今度は行きと交代で、レナが自転車にカナがバスに乗る。
 バス停はコールズの斜め前。ベンチがいっぱいだったので階段に座って待っているとすぐにバスが来た。
 …待てよ、何か変だぞ。
 やってきたバスは、Coral Reef Coaches。今朝乗ったSun Palmsではない。LOCALとOUTの表示はちゃんとあるし、一昨日みんなで乗ったときもCoral Reef Coachesを使ったからこのバスがリッジスに行くことは間違いなかろう。ということは…。
 しまった。もしかしたらあの往復切符が使えない?
 やられた。だから往復切符を売っているのだ。おそらくポートダグラスのローカルバスはCoral Reef CoachesとSun Palmsと二社あるのだ。ライバル社に客を取られないように、自社のみに使える往復切符を薦めるのに違いない。

「この切符で乗れる?」
「ダメだよ」
「…バス停は同じところでいいの?」
「それは大丈夫」
 私の持っているSun Palmの切符は白、見ているとCoral Reef Coachesの切符は黄色だった。
 どうしよう…。決断を迫られる。
 新たに片道の切符を買ってCoral Reef Coachesのこのバスに乗るか、切符の使えるSun Palmsを待つか。停留所で待っていた人たちはほとんど乗り込んでしまった。
 …ケチケチ根性が勝った。
 どのくらい待つか判らないけど、そのうちSun Palmsも来るだろう…。

 5分くらいでSun Palmsが来た。
 これまた吃驚、バスでなくて単なるワゴン車だ。
 Coral Reef Coachesが一律にマイクロバスを走らせているのに対し、Sun Palmsは大型観光バスがあるかと思えば同じ料金同じルートでワゴン車だったりする。
 切符を見せるとOKと言われた。ワゴンなので自動でドアが閉まらない。最後に乗った客が自分でドアを引く。ほとんど自家用車みたいだ。
 座席も少ないので、譲り合って腰を下ろす。二人用の席に私とカナ、2歳ぐらいの子供を抱っこした大柄なオージー男性が並んで座る。あまりに狭くてお互い顔を見合わせ苦笑する。
 自分たちでドアの開け閉めをするのも手伝って、わずか5分くらいのトリップだが、降りる頃には車内は妙に和気藹々としているのだった。



 リッジスリーフリゾートには5つのラグーンプールと、1つの25mプールがある。
 今日は前に行った二番目に大きなヴィラのプールではなく、一番大きいホテル棟のラグーンプールに行ってみよう。

 泳いでいる人は子供を中心に数人程度だが、プールサイドは大賑わい。白いビーチチェアは日光浴や読書をのんびり楽しむ人たちでほとんど埋まっていた。
 お腹がすいていたのですぐ食事にしようと思ったが、子供たちはプールを見たら真っ直ぐ飛び込んで行ってしまう。冷たかろうが深かろうが、まったく躊躇しない。
「レナ、おいで」
 姉のカナはレナの手を引いてどんどん水の中へ入っていった。
 腕にはめる浮き具があれば、二人とも足がつかなくても平気。カナは幼稚園の正課で週に一度スイミングを習っているし、レナはほとんど姉の真似をしていて泳げるようになった。
 笑えるのは飛び込み。レナはまったく恐れずにどんな深いプールでも頭っから勢い良く飛び込むのである(幼児用プールでそれをやると怒られます、念のため)。身長が85センチも無いおちびさんなのでほとんどの人は目を丸くする。

 さてここのプールサイドでは、カクテルやソフトドリンクのほかサンドイッチなどつまめるが、プールバーではドリンクしか作れないのであとはホテルのレストランで作って運んでくる。
 写真はクラブハウスサンドとローストビーフサンド。
 カクテルは左がディンツリー・ドリーム(ココナッツリキュールベースにストロベリージュースなど)、右がミス・マンゴー(テキーラベースにマンゴーリキュールなど)。ちょっとポートダグラスっぽいカクテルを選んでみた。


 写真を撮るからと言ったらポーズを取ってくれた二人。題名はリゾート・ライフ?
 ここでも東洋人の子供は珍しがられ、二人のポーズは注目の的だった。
 プールには大きなイルカも浮いていて、カナとレナはそこに乗ってはパパに振り落としてもらっておおはしゃぎ。楽しい楽しい、ポートダグラス最後の日。

 ふとカナが呼んだ。
「ママもこっちに来て一緒に遊んでよ」
 ぎょ。
 この冷たい水の中に入るの? ママ、寒いの苦手なんですけど…。
 躊躇しているとカナに泣かれてしまった。とほほ。



 日が傾き始めた。いつの間にか寛いでいたプールサイドは日陰になり、あれほどじりじりと照りつけていた日差しも弱くなっている。もうじき夕暮れだ。今日、もしまだレンタカーがあったら、港へ夕日を見に行きたいところだが、それは叶わない。
 部屋に戻って最後の夕食。
 明日は帰る日だから残った食料を食べられるだけ食べてしまおう。
 子供たちは二日目にディンツリーに行ったとき、エンバイロメンタルセンターでロリキートやオウムのステッカーを買ってもらった。カナは幼稚園でいつもしているように、ご飯を残さず食べられたら、一枚ずつ鳥のシールを貼ることに自分で決めた。残したら、赤い折り紙を切って後ろにセロテープを丸めて留めただけの赤シールになる。
 始めはせっかく買ってもらった鳥のステッカーをどんどん使っちゃうのは勿体ないなと思ったが、カナもレナも鳥のシールが貼りたくて毎食頑張った。
 今夜のご飯も残さず食べるよ。

 ところで明日の空港までの移動について旅行代理店からまだ連絡されていなかった。
 ケアンズに到着したその日に、市内のリーフカジノで他の人たちは指示を受けていたが、私たちだけ離れたポートダグラス泊だったし、10日と滞在が長かったのでまだ決定していなかったらしく、後日電話で連絡を差し上げますと言われたままだった。
 事前に渡された用紙には、とある頁には、専用シャトルでお迎えにあがります。別の頁には路線バスで空港まで出てくださいとあり、矛盾していた。
 今夜、連絡がないとどうしてよいか判らない。別に勝手に空港まで来てくださいというならそれはそれで良いのだが…。
 パパがツアーデスクに電話してみた。
 9時半に空港行きのシャトルバスがホテルのロビーに迎えにあがります。日本人の係員がその場に立会い説明します。8時45分に荷物は部屋からピックアップしますからそれまでに準備しておいてください、という回答だった。
 ケアンズを発つ飛行機はカンタス。現地時間の12時50分に離陸する。まあ、いい時間だと思う。
 パパは、「まさかそのバス、私たちを乗せた後、ケアンズ市内を経由したりしないでしょうね?」
「もちろんです、真っ直ぐ空港へ向かいます」
 さらに、空港で無駄な時間を過ごすよりゆっくり出発したいと思い「空港で時間はあるんですか?」と聞いたら、明らかに勘違いされたらしく、「空港に着いて、免税店でショッピングする時間は十分にありますよ」とお決まりの回答をされた。



 カナはいつも旅の終わりに泣く。
 楽しい楽しい旅が、終わってしまうことに耐えられないのだ。
 今朝ぐらいから時々思い出したように泣いていた。
「帰りたくない…」

 それじゃあ、歯磨きをして、夜の散歩に行こうか。
 カナはどうしてももう一度Orange-Footed Scrubfowlに会いたいという。
「帰る前にバイバイしたいの」

 ところどころ明かりの灯してある夜道をみんなで手を繋いで散歩する。ヴィラからホテル棟に渡る場所に小さな橋がある。カナはその欄干で動くものを見つけた。ちっちゃなトカゲだ。
 ぐるりと敷地の外側へ移動し、線路をまたぐ。それは、ついに見ることが出来なかったバーリーフーリー鉄道の、枕木だ。
 見上げるとリッジスの白い看板にたくさんトカゲが張り付いている。写真を撮ろうとしたら気配を感じていっせいに逃げてしまった。
「鳥さんはね、早寝早起きなの。暗くなると目が見えないから、夜はもう寝ているんだよ。Orange Footed Scrubfowlには明日の朝、バイバイしよう」
「うん」

 子供たちも寝てしまって、静かになった。
 パッキングは明日の朝にして大人も寝ることにしよう。
 星が出ているかと一人、部屋の外に出てみた。
 サンダルを履いてドアを開けるとひんやりした夜の大気。
 既に曇り始めていて星は見えなかった。
 おや、ちょうど私たちの部屋と隣の棟の間くらい、暗い道の真ん中に何かがうずくまっている。
 目の錯覚じゃない。猫ぐらいの大きさの動物。
 近づくとサッと身を翻して、隣のヴィラの影に逃げて行ってしまった。
 逃げるとき窓の明かりではっきりと尻尾が見えた。たぶんあれは、ブラッシュテイルポッサム。

 ポッサムがお別れを言いにここまで来ていたよと、明日、カナとレナに話してあげよう。


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