ポートダグラス楽園日誌
「ラグーンはワニでいっぱい -ハートレイズ・クロコダイルアドベンチャーズ-」





5月30日(金)

 今日はレンタカーを返す日だ。
 
 昨夜パパがロビーで館内案内のリーフレットをもらってきた。
 そこに大きく謎のマークが書かれている。
 そのマークとは、温泉マーク。あの三本ゆらゆらと湯気が立っているあれだ。似ているというレベルではなく、温泉マークそのもの。この辺りに天然温泉が湧いているなんて話は聞いたことが無いぞ。
 オーストラリアで温泉といえば、マタランカなんかが有名だ。ノーザン・テリトリーで、カカドゥなどの近く。よく水着で金髪のお姉さんたちが入浴…というか水遊びしている写真がある。(実はケアンズにも天然温泉はあることはある→インノット温泉)
 そもそも何でオーストラリアであの温泉マークなんだ?
 あのマークは群馬の磯辺温泉が発祥と聞いている。世界共通なんて聞いたことも無い(笑)。

 但し、ここにスパはある。
 ガイドブックなどで見る限り、天然温泉とか、お風呂とかいう感じではなく、マッサージ、トリートメント専門の施設のようだ。要はエステみたいなものか?
 ケアンズ近郊は有名なスパが多く、ポートダグラスにも施設のあるディンツリー・スパなど南太平洋で五本指に入るスパらしい。

 どうもここの館内案内に描かれている温泉マークも、マッサージ施設を指しているようだ。
 パパはフェイシャルでもなんでもやっていいぞと太っ腹なことを言った。
 …でも
 フェイシャルの代わりに別のがいいんだけど。
 何だ?
 レンタカーを返す前にMt.Molloyに行ってみたい。
 そこ、何があるの?
 …何って…よく判らない。
 よく判らないところへ向けて往復60キロ以上も走らせるつもりか?

 ついどうしても、情報の少ないところへ少ないところへ行きたがるのは性(さが)か?
 ここの名を見たのは、カンタス系のQHインターナショナルという旅行代理店で大昔に手に入れたオプショナルツアーブックだった。ここのタクシーによる一日観光の一例として出ていたのだ。ケアンズから港町のリゾート、ポートダグラスへ行き、さらにマウント・モーロイからの絶景をお楽しみいただけます、と。
 ここに行けばそんな絶景が見られるのか?
 モーロイ山なんて聞いたことも無いぞ。
 でもポートダグラスからは割りと近い。ディンツリーに行くときに、モスマンの手前でMt.Molloyへの分岐を見た。あそこを左折して登っていけば良いのだ。

 とても天気の悪い朝だった。
 ポートダグラスを出て、モスマン方面へ走り出したら霧雨が降ってきた。昼間に雨など今回の旅行で初めてだ。

 分岐から10キロほど登ったところに、Lyons Looloutという展望スペースがある。
 …見事に雲で何にも見えない。
 後さらに20キロ走って、何もなかったり何も見えなかったらどうする?
 後部座席の子供たちは南アサートン以来ドライブには飽き飽きして、既に今日も騒ぎ出している。
 いいよ、ここまでで。
 きっときっと晴れていたらここから綺麗な景色が見えたんだよ。でも今日は駄目。今回の旅で初めての挫折。

 再びモスマンからポートダグラスへ戻るハイウェイ。

 ぐずぐず言う子供たちを少し車から降ろして気分転換させることにする。
 ほら、カナとレナの好きなオジギソウがいっぱいあるよ。触って葉っぱを閉じさせてごらん。



 ポートダグラスをスルーして、真っ直ぐケアンズ入りする前に、初日に行きそびれたワニ園へ寄ってみよう。


 場所はキャプテンクックハイウェイ沿い。ちょうどポートダグラスとパームコーブの間くらいか。
 ハートレイズ・クロコダイルアドベンチャーズ Hartley's Crocodile Adventures
 ハートレイズのクリークに元々あったクロコダイル・ファームを、2002年8月にテーマパーク化したもの。まだ開園して一年たっていない。新しい施設だ。

 受付でお金を払っていると、レナが面白いものを見つけた。岩手の民芸品ちゃぐちゃぐ馬っこと同じ原理で、小さな張子のワニの頭がゆらゆら揺れるやつ。


 入り口を入るとすぐに、ラグーンがある。レストランがあってそこからよく見える。右手に屋根つきボートが停泊していて、時間になるとこれで説明しながらクルーズしてくれるらしい。
 レストランの手すりには髑髏マークが書かれていて、身を乗り出したり食べ物を川へ投げたりしないようにと注意書きがある。ワニだらけってことね。ちょっとドキドキ。

 さて、昨日のレインフォレストハビタットでワニを見た経験から、ワニというのは餌を見ないとさっぱり動かない(というか、獲物を捕らえるチャンスをうかがっている)生物なので、フィーディング・ショーか、アタックショーでないと、まったくつまらないだろうと予測していた。
 パンフレットでショーの時間を確認してみよう。
 午前中は、
9時から亀、魚、水鳥へのフィーディング
9時半からカソワリーのフィーディング
10時からクロコダイルのファーム・ツアー
11時からクロコダイルのフィーディング
11時半から子ワニと記念撮影となっている。
そのほか、1時間半おきくらいにラグーンのクルーズ船が出る。
 ハートレイズ・クロコダイル・アドベンチャーズに着いたのがまだ9時ごろだったから、亀や魚のフィーディングにも間に合ったのだが、それほど面白そうではなかったので、まずはお茶にすることにした。
 ハーツのレンタカーを借りたら、ワニ園の二割引券とお茶券が付いていたのだ。
 お茶にセットで付いてきたアンザック・クッキーは全部子供たちに食べられてしまった。

 それからゆっくりカソワリーのフィーディングエリアに行った。
 カソワリーは世界で三番目に大きな鳥で、オーストラリアの北部とニューギニアにしか生息していない。一番大きいのはダチョウ、二番目がやはりオーストラリアのエミューで、姿の派手さでいったらカソワリーがナンバー1だろう。


(カソワリー・フィーディングの動画はこちらへ 別窓で開きます)
 何しろこの容貌。
 真っ青な首と赤い胸元が印象的だ。
 最初のオーストラリア旅行で初めてカソワリーを見たときから、私とダンナはこの鳥のことを「女王様」と呼んでいる。

 カソワリー・フィーディングは、係員がカソワリーに餌をやるだけかと思ったら、お客さんにもやらせてくれるのだ。
 ここには三羽のカソワリーが飼われていて、金網の上から用意されたフルーツを差し出すと、やおら首を伸ばしてくちばしで奪い取られる。
 その様子、ちょっと怖い。
 カナもやってみた。怖いので金網の上からはやらず、金網の隙間からおそるおそる差し出す。鋭いくちばしががぶっとフルーツをつかんでひっぱる。レナもびくびくだ。
 でもこのスリルがまたたまらないらしい。他のお客さんに交代した後もレナはもっと餌をやるやると騒いでいた。

 次はクロコダイル・ファームツアーだが、きっと子供たちはワニが孵化する施設など英語の説明を聞かせられながら見学させられても退屈するだけだろう。他のお客さんにも迷惑だから、それはパスして別の動物を見て回ろう。
 ここでは何故かコアラやカンガルーも飼われている。


 Magpie Goose。見かけによらずなかなか凶暴で、レナが襲われた。
(レナを襲うマグパイ・グースの動画はこちら 別窓で開きます)
 しかも鳴き声がまた五月蝿い。ぐわっぐわっと聞こえてきただけでレナはびくっとする。

 中央に昔流行ったエリマキトカゲ。エリマキを出していないとタダのトカゲ。


(ユーカリの葉を食べるコアラの動画はこちら 別窓で開きます)
 お約束のコアラ。一匹だけ目を覚ましていてユーカリの葉っぱをむしゃむしゃ食べていた。

 亀のいるという池もあった。水は濁っていて何も見えない。4人でしばらく水面を見つめていた。あっ、亀がぷかりと浮いてきた。すぐにサッと沈んだ。あっ、今度は向こうに見えた。見たの見ないのと大騒ぎ。子供たちって案外こういうの好きかも。

 もちろん園内のところどころにワニもいて、ぴくりとも動かない。エリアにはスタッフ以外立ち入り禁止区域などもあって、ここに入るとやばそうだよねぇ、サファリパークで車の外に出るのと同じだよねぇと顔を見合わせる。

 10時半になったので次のクルーズ船が出る。行ってみよう。

 ボートに乗ろうと既に数人集まっていた。カナは青いトンボをみつけた。レナがどこどこ?と探しているうちに飛んでいってしまった。

 この川、ワニが出るの?とちょっと心配そうなレナ。

 前の席にも子供が乗っていて、「クロコダ~イル、クロコダ~イル」とはしゃいでいる。振り向いたのでカメラを向けたらにこっと笑ってくれた。


 案外このクルーズは面白い。
 というのは、クルーズ船が近づくだけで、ワニ達は餌が来たかと動きを見せるのだ。園内の他の池にいる動かないワニとは大違いだ。すーっと近づいてきたり、水の中にもぐったり、子供たちを飽きさせない。

 ラグーンの奥で、運転手はボートを止め、まだ羽も付いている鶏のがらを取り出した。それを棒の先につけて水面を叩く。
「カモンカモン!! ヒアーヒアー!!」
 カメラをガラスの上に出してはいけないと言われる。
 ワニたちがそろそろと動き出した。静かに静かに水面を渡ってくる。

 がばっと顔を出した。そのままぱっくりと90度も口を開ける。
 ピーターパンでフック船長がカチカチワニに襲われたときみたいだよ。
 すごい迫力だ。子供たちも手に汗握った。

 船を下りるとそろそろクロコダイル・フィーディングショー。
 みんなぞろぞろとショー・シアターへ向かう。

(迫力のクロコダイル・フィーディングの画像はこちら 別窓で開きます)
 観客たちは柵で遮られた階段状の席に座りスタートを待つ。
 係員が二人、長い棒を持って柵の外に立っている。バケツにぶつ切りの鶏肉が用意され、説明が始まる。
 この説明がまた長い。いつまでもいつまでも終わらない。が、この待ち時間も必要な時間らしい。なぜなら係員が説明している間にも、音も無くあちらからこちらから、凶暴なソルトウォーター・クロコダイルがゆっくりとゆっくりと忍び寄ってくるのだ。向こうの岸にいた2匹も川に入った。こちらの一匹も向きを変えた。じっと見ていても気づかないくらいの動きだ。気が付くといつの間にかさっきより近い場所に来ているという感じだ。

 説明が終わるころには係員はすっかりクロコダイルに取り囲まれていた。手に持つ棒で威嚇しながら肉を投げる。ショーの始まりだ。
 ワニ達はいっせいに食いつく。大きな口をあけてがぶりと噛み付き、頭を左右に振りながら噛み砕く。うわぁ、怖いよ。この辺のクリークで水遊びなんかしたら、こんなのが寄ってくるのか。勘弁して。

 ショーの時間はあっという間に終わってしまった。
 迫力があったからなおさら短く感じたのかも。
 シアターを出て、みんなぞろぞろと係員についていくので自分たちもその後ろに続いた。
 移動して今度はデッキからフレッシュウォーター・クロコダイルに鶏肉を投げる。
 ソルトウォーター・クロコダイル(入り江ワニ、塩水ワニとも言う)に比べて、フレッシュウォーター・クロコダイル(淡水ワニ)は一回り小柄で大人しい。
 鶏肉を投げられても空中でキャッチするどころか、きょとんとしてまったく食べようとしないのもいた。少なくとも淡水ワニは普通は生きている人間を襲ったりはしないのだそうだ。

 さらにショーは続いたらしいが、説明も英語だし、ここで切り上げて子ワニとの記念撮影に行くことにした。
 背景にラグーンの写真を貼ったボードがあり、その前で撮影してくれる。テーブルに撮影用の子ワニが乗せられていた。可哀想に噛み付かないように口先をセロテープでぐるぐるまきにされている。

 レナが手を伸ばして子ワニの足に触ってみた。
 「冷たいよ」
 大人しくてほとんど動かない。
 家族4人でその子ワニを抱きかかえて記念撮影してもらった。

子供たちにちょっと聞いてみた
子ワニ、どうだった?
■カナ
 とっても可愛い
 あのワニが大きくなっちゃったら、違う赤ちゃんワニが写真用に連れてこられるんだね。
(そう、そのとおり(笑))
■レナ
 冷たくて可愛かった。もっと抱っこしたい。

 フォトエリアの近くに、クロコダイル・アタックショーのシアターがある。係員があそこのショーは凄いぞ、出演するワニは素晴らしいジャンプを見せるんだ、と教えてくれた。
 残念ながらアタックショーは午後の部。午後までいると、ケアンズからの帰りのバスに間に合わない。

 お腹が空いたのでそろそろランチにしよう。
 ここはワニ料理やカンガルー料理もある。
 でも食べたらきっと子供たちが怒る(笑)。無難にチキンにしておこう。

 タイ・チキンのサンドイッチとフィッシュアンドチップス。子供たちにはオレンジジュースも。
 こっちのジュースなどのペットボトルは蓋に一工夫してあって、小さい子でもストローを使わず飲めるし、倒してもこぼれにくい。日本でもこんな風にしてくれないかな。
 タイ・チキンはソーントンビーチで食べて美味しかったから。もしかしてケアンズで定番メニューなのかな。タイ風の香辛料がぴりりと効いていて美味しいのだ。
 ねぇ見て、いつの間にか青空だよ。
 カナとレナは晴れ女。しかし自分たちに興味がないときは決して晴れさせてくれない。どうせ展望台は二人には興味が無いのよ。だから朝は雨で、楽しいクロコダイル・アドベンチャーズは晴天。




 楽しく遊んだ後はお休みタイムか?
 ケアンズへ向かう車の中で二人とも爆睡。寝ているポーズが面白かったのでパチリ。

 最初の予定では、ケアンズで夕食を食べて帰ろうかと思っていた。
 コンドミニアム泊でまったく夜は外食していない。一度くらいはちゃんとしたレストランで食べてみたい。それに海辺に来ているのに毎晩オージービーフばかりでシーフードを食べていない(贅沢を言っている)。スーパーマーケットに行っても、あまり魚介類を売っていないのだ。種類があるのはエビくらいで魚は加工してあるものがほとんど。道沿いにいくつもシーフードの看板を掲げたレストランはあるので、それなりに魚が取れるのではないかとも思うのだが、どういうわけか手に入らなかった。
 それに貝など買ってきて生で食べるのは怖すぎる。
 やっぱり一日くらい雰囲気の良いレストランで新鮮なシーフードを食べてみたいと思っていた。

 それにはやはりレンタカー返却時にケアンズで食べてくるのがよいのではないか? レストランも豊富だし。
 そう思っていたが、昨夜、二人で気を変えた。
 夕食を食べた後に眠くなった子供たちを連れて路線バスに乗る?
 距離にして70キロ弱、時間にして1時間半くらいか。
 寝てしまったら重いことこのうえないし、眠くてぐずぐず騒ぎ出したら最悪。他の乗客にもいい迷惑だ。
 昨日の夕方ポートダグラスの町をふらふらしてみて思った。ここにもいい感じのレストランがいっぱいあるじゃない。もしかしたらケアンズよりずっと雰囲気が良いかも。
 決めた。せっかくレンタカー返却のためにケアンズまで出るけれど、さっさととんぼ返りしよう。夕方にはポートダグラスに戻って、海に近いオープンエアの素敵なレストランで豪華なシーフードを食べるのだ。これで決まり。

 もうひとつケアンズには用がある。
 スーツケースを買うつもりなのだ。
 前回パームコーブに滞在したとき、まだ子供たちもいなかったので荷物はバックパックに背負って行った。ケアンズでよさげなスーツケースを見つけて衝動買い。帰りはそのスーツケースを転がして帰った。
 それも昔のこと。そのとき買ったスーツケースは、主に子連れの国内旅行に酷使してがたが来ている。
 今回ここで新しいスーツケースを買って、古いほうは処分していこうとこういうわけだ。

 子供たちが寝ているので、パパが一人でスーツケースを買いに出かけた。
 ストリートの駐車スペースにコインを入れてパーキング。
 パパが戻るまで暇だったので車を降りてみた。

 通りを隔てて綺麗な街路樹。黄色いボンボンのような花がたわわに咲いている。ケアンズのシンボル・フラワーだ。
 そこへレインボーロリキートが飛んできた。
 この花が好きらしく忙しなく啄ばんでいる。右の画像はちょうど頭を出したところ。
 パパが新しいスーツケースを転がして戻ってくると、いっせいに飛び立った。六羽もいたのだ。
 本当にこの町は野鳥に愛されている。




 ハーツのレンタカーオフィスについたらカナがまず目を覚ました。
 これが買ったばかりの新しいスーツケース。お値段は100ドル。とても大きいけど軽いのが自慢。前のと同じ店で買った。もしかして私たちお得意さん?

 リッジスが予約を入れてくれた空港のシャトルバスは予定時間より20分ほど早かったがもう着いて待っていてくれた。ケアンズから郊外のホテルに戻るのに、路線バスではなくこんな手があるとは知らなかった。空港を使わないのに空港のシャトルバスなんて。しかもケアンズ市内の指定した場所まで迎えに来てくれるなんて有難くて涙が出そう。
 何しろレナがまだ半分寝ているのだから、こんなに重いのを抱っこして、歩くには広い街中をてくてくと、バス停を探して回るなんてぞっとする。

 私たちを乗せたバスはケアンズ市内のあちこちから空港までピックアップしてくる係りだったらしく、空港に着いたら今度はポートダグラス行きに乗換えだ。空港を中心に、いろいろな場所から予約した乗客をピックアップするのが担当のバスと、空港からまた各リゾートエリアへ向けて運ぶのが担当のバスがあるのだ。
 乗り換えたポートダグラス行きには、既に数人の乗客が乗り込んで発車を待っていた。

 今まで二往復したが、キャプテンクックハイウェイ、バスだと目線が高いからまた新鮮だ。今日遊んだハートレイズを過ぎると、やがて道はかなりのワインディングロードになる。道幅は決して広くはなく、しかも速度制限は80キロ。パパなどかなり運転するのが怖いと言っていた。バスは慣れているのかすごいスピードで飛ばす。道に凹凸があると、ぼんぼんと跳ねる。
 最後の海岸線にマングローブと干潟が見えてきたらポートダグラスまであと少し。



 夕刻前には予定通り部屋に戻る。

 今回の旅行は、パパが会社からもらったリフレッシュ休暇。
 という割にはちっともリフレッシュできてない…とは旅行中のパパの口癖。よほど南アサートンで蚊の餌にされたのが気に食わないらしい。
 バルコニーでビールを片手にのんびり…。
 これだよこれ、これがリゾートというものさ、とパパ。



 5時少し前に、路線バスに乗ってポートダグラスの町に出かける。
 とりあえずワンピースにアクセサリーもつけてみたら、パパは、何だよ自分ばっかり、こっちは御付きの人みたいじゃないと言う。これでもドレスアップ用のサンダルは持ってこなかったんだから。仕方が無い、足元はスポーツサンダルで我慢だ。

 夕暮れ間近のポートダグラス。
 この町ではほとんど日本人を見ない。というか、この旅ではほとんど日本人を見ていない。ケアンズでは日本人が多すぎて、もう少し外国に来た気分が味わいたいと思ったら、ポートダグラスまでエスケープするのがいい。ちょっとしたハイダウェイだ。

 昨日パパが目をつけていたレストランに行ったら、ディナーは6時からだと言われた。まだ明るいので時間まで海岸へ行ってみよう。


 見て見て。
 大きな椰子の実を拾ったよ。


 昼間のハートレイズではよく晴れたけど、ポートダグラスでは一日雲が空を覆いつくしていたのだろうか。波も荒い。
 丸い砂の玉が沢山あって、ぽつぽつ砂浜に穴が開いているところは、じっとしゃがんで待っていると、小さなカニが出てくるよ。
 実は昨日、海でこのカニを二匹捕まえた。帰る日まで飼っていようと部屋へ持ち帰って器に入れておいたら、今朝、そのうち一匹が死んでしまっていた。カナとレナは泣いて、生き残った一匹をすぐに逃がしてやった。
 だからもうカニは捕まえないでね、とカナが言う。
 こうして見ているだけ。


 まもなく日が沈む。
 風が冷たくなってきた。

 ここが今夜のレストラン。Coconutz Seafood Restaurant。

 ポートダグラスの賑わっている辺りからちょっと海寄りに外れている。
 バンドの生演奏をやっていてオープンエア。カジュアルだけど洒落ている。
 ただ、ライブは6時までで、ディナーは静かに食べられるようになっている。


 シーフード・プラッター。時価となっている。
 ロブスター、オイスター、ムール貝…どれも美味しそう。エビはみんな子供たちに食べられてしまった。
 このほかにマグロのカルパッチョを頼んだ。これがまた絶品。

 空をコウモリが一羽横切ったかと思うと、シャワーのような雨が降り始めた。
 雨は次第に激しくなり、道を黒々と濡らした。
 だんだん吹き込んでくるようになったので、お店の人に頼んだら、するするとビニールのような幕を下ろしてくれた。

 いつの間にか夜が忍び寄っていて、海岸に至る道は暗い。今夜は星も出ないだろう。
 デザートまですっかり平らげて、幸せな気分。
 帰りはタクシーだった。
 運転手さんに、あのレストランはとっても美味しいけどとってもエクスペンシブと言われる。だから年に1回ぐらいしか来られないよと。
 確かに。
 自炊だと親子4人で三日分の朝晩あわせて60ドルちょっとなのに、今夜一晩の食事で200ドル。
 でもとっても美味しかったから満足。


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