ポートダグラス楽園日誌「キャプテンクックハイウェイを海沿いに北へ」





5月25日(日)

 ケアンズではいつも、空港で夜明けを待っている。
 濃紺の広い空が、東から徐々に期待を込めて白み始める。
ケアンズ国際空港で夜明けを待つ


 おかげさまで昨夜は一睡もできなかった。
 結局カナは一回、レナは二回、座席から転落した。
 そうでなくても泣いたりぐずったりで、大人二人は寝るどころではない。午前4時ごろ機内の灯りは点灯し、ジュースが配られたので、ぼうっとした頭を振りながら昨日のパンで朝食をすませた。
 カナは起きたが、夜何度も起きて泣いたレナは背もたれを起こしてシートベルトを装着してもまったく目を覚ます気配が無く、ついに着陸するときまで眠っていた。三歳児としても標準より小柄な彼女は、シートベルトの隙間から何度も滑り落ちそうになっていた。

 乗り込むときは一番だったが、降りるときはかなり遅くなってしまった。
 飛行機から一歩踏み出すと、温室の中のような湿った植物の臭い…ケアンズに来たのだ。
 通路を通り、免税店の前まで来ると、なにやらみな一列に並んでいる。入国審査の窓口は一つで、そこに辿り着くまで長い行列になっているのだ。
 渋滞と行列が何より嫌いなパパはいきなり、うんざりという顔つきになる。無理もない。昨夜はまったく寝られなかったのだから。カナはまだしもレナなどはまだ寝ている。このところずっしりと重くなったレナを抱きかかえて、私も列の長さに途方にくれてしまった。

 パパが様子を見に、列の先頭を見に行った。
 そのとき、恰幅の良い係員の女性が私に声を掛けた。ハズバンドはどこか?と聞いている。パパがこちらに引き返してくるのが見えたので、「彼だ」と指を差す。すると彼女はこっちへ来いと手招きした。言われるがままについていくと、入国審査の窓口の隣に、もう一つ窓口があって、そこに並べと言っているようだ。私の前にはやはり首も座らないような赤ん坊を抱っこした金髪の女性が並んでいるばかりで、どうもこちらは、特別な窓口らしい。後からパパに教えてもらったが、クルー専用だったそうだ。
 おかげで入国審査はあっというまに終わった。搭乗のときもだったが、子連れへの配慮というのは非常にありがたいものだ。
 一般向けの入国審査窓口は相変わらず行列だ。しかも一人一人丁寧に審査しているのでなかなか列は進まない。この時刻、東京、大阪の他、シンガポールや中国などアジア方面からの便が次々ケアンズに到着する。いやはや、機内で疲れて更にこの列でみんなぐったりしてしまいそうだ。
 レナはもう三歳だが、月齢よりかなり幼く見えるし、眠り込んでいたのを私が抱っこしていたので、特に配慮してもらえたのだろう。助かった。

 入国審査が早く済んだので、荷物の方は少し待つことになった。出てくるのは前の便の荷物ばかりらしく、時間がかかる。

 回りを見回すと、他にも赤ちゃん連れの家族が何組かいる。
 白人のママは、みんな首が据わるか据わらないかの赤ちゃんを専用の抱っこ紐で前向き抱っこしている。北欧のメーカーが作っているスタイリッシュな抱っこ紐で日本にも入ってきている。私も前に買うならあれがいいなと思っていたタイプだ。
 ママのお腹の辺りに赤ちゃんが外向きにくっついている形で、あれこそが豪州名物有袋類そのものだなと思わず可笑しくなった。
 また彼女たちは例外なく、ハードタイプのキャリーを持ってきている。
 チャイルドシートのタカタが日本でも4in1という名称で、A型B型ベビーカー、チャイルドシート、新生児用キャリーと4役をこなす便利品として売っていて、私もカナが生まれた5年前に購入、ありがたく使わせてもらったが、キャリーとしてはあまりにごつくて重いので、とても旅行に持っていく気にはなれなかった。
 あんなものをあっさり持ち歩くのだから、やはり彼女たちとはがたいが違うのだ。

 荷物を受け取ったら、次は厳しいと評判の豪州入国の検疫だ。
 何しろこの大陸は特殊で、他にはいない動植物が多い。そのため持込には相当厳しい。持ち込み不可の物品も多いが、医薬品、食料品、あまつさえ麦藁帽子なども全て申告しなくてはならない。常備薬や子供用の飴玉一つでも見逃してもらえないのだ。

 検疫の列も長かった。ただ入国審査よりはましだ。少しは列が短いから。
 ちょうど今、中国、台湾で猛威を振るっている新型肺炎SARSの影響で、特別念入りに行っているらしい。目の前でスーツケースをあけて全部見られている人が何人もいた。

 我が家には成田空港で買ったペットボトルのジュースと、発着の際の気圧変動で耳が痛くなるのを防ぐため、子供用に持ってきたキャンディーのほかは食料品はまったく持っていなかった。
 ペットボトルはケアンズ着と同時に飲んで処理し、キャンディーは最後の一個は検疫の直前に子供の口の中に消えた。
 あとは総合感冒薬や解熱剤、かゆみ止めなどの常備薬だけだ。
 順番が来た。
 パパが薬以外に申告するものは無いと言った。
 係員は、メディスンだけなら特に見ないから行って良いと言った。
 但し、子供づれなので、「キャンディー? ドリンク?」としつこく聞いてくる。「ノー、ノー」と首を振った。全部処分しておいて良かった。

 ツアーなので係員が看板を持って待っていた。他のツアーの人たちもまとめてピックアップするから待つように言われる。30分近く待たなくてはいけないらしい。ヘビースモーカーのパパは、機内で吸えなかったので早速外に出て一服した。
カンタスで貰った文具で遊ぶ子供たち

 カンタスでもらったウォレス&グルミットの文具セットで遊ぶカナとレナ。
 もうここは、外国なんだよ、わかってるのかな?

 ようやく全員揃って、迎えのバスに乗り込む。同じ旅行会社を使った客20人ほどを、いろいろなツアーをまとめてケアンズ市内に運んでくれるらしい。ケアンズはファミリーが多いのではないかと思っていたが、他に子連れは一人もいなかった。

ケアンズの夜明け

 バスの中から見る日の出。
 その赤さたるや、地平線が燃えるよう。攻撃的な朝日だ。
 空港はケアンズの北にある。鬱蒼とした木々が両側に生い茂るハイウェイは、国道1号線。世界最長の道の一部だ。

 途中、一部の乗客を直接宿泊ホテルで降ろし、残りはソフィテル・リーフカジノという、ヒルトンとケアンズ・インターナショナルに挟まれた大型ホテルに運ばれた。
ケアンズのトリニティワーフ

 リーフカジノの直ぐ前。トリニティワーフのあたり。停泊しているヨットや海もよく見える。

 カンファレンスルームで、延々とツアーの説明が始まる。内容は既に知っていることばかり、子供もあきているのでパパはいつになったら終わるのかと係りの女性に聞きに言ったぐらいだ。海外旅行にツアーを使うのは初めてで、いくら航空券とホテルのみのツアーでも、それなりに我慢しなくてはいけないことがあるらしい。提携している土産物屋に連れて行かれ、強制的に時間をつぶさせられるよりはましだと思うけど。

 ここに集められたメンバーは、私たち以外は全てケアンズ泊で、滞在日数も一週間以内らしい。私たちの申し込んだツアーも、本来なら5日と7日から選ぶようになっていて、延泊できるのを幸い、一箇所滞在で10日間コースにするような物好きはほとんどいないのだろう。
 ツアーの中には8人の小団体で申し込んだ人たちもいて、どうも親戚でケアンズ旅行を企画したらしい。そのうち一人らしい年配の男性は、この部屋に連れてこられてからずっと後ろのソファーで横になっている。機内で眠れず体調を崩してしまったのだろうか。
 ツアー全体の説明が終わると、次はお勧めレストランやお勧めオプショナルツアーの説明だ。私たちはオプショナルもいろいろ考えて既に申し込むものも決めている。早く終わりにしてくれないかなという感じだ。

 私たちが泊まるのは、ケアンズではなくそこから70キロ近く離れたポートダグラスだ。5つ星ホテル、シェラトンミラージュ・ポートダグラスがつとに有名で、高級リゾートとして名を馳せている。
 そこのリッジス・リーフ・リゾートというホテルのコンドミニアムだ。
 パンフレットでは、ケアンズからポートダグラスまで路線バスで移動してもらう旨記載されていた。しかし、係員は「午後2時までお待ちいただければポートダグラスまで専用バスでお送りしますよ」と言う。専用ったってポートダグラス泊は我々ファミリーしかいないのだ。私たちのための専用バスではなく、ポートダグラス一日観光(というオプショナルツアーもあるのだ)のついでに同乗させてやろうという魂胆に違いない。
「どうでしょう?」
「(喜んで)キャンセルします」
「え? キャ、キャンセルで宜しいのですか?」
 だって2時まで何してるのよ(笑)。今まだ朝の8時とかよ。
 ポートダグラスまでの70キロ。楽しく自分たちのペースでドライブさせてもらおうと、とっくにレンタカーの手配入れてるんだから。



 リーフカジノからレンタカーオフィスまで徒歩10分程度。
 すきっ腹を抱えて歩き始める。
ケアンズ・インターナショナルホテル

 紺碧の空に聳えるケアンズ・インターナショナル…。新婚旅行のとき泊まった思い出のホテルだったりする。あのときはヘイマン島からここケアンズに来て、そのあとエアーズロックへ向かった。

オーストラリアの花

 街中で花を拾う。
 頭上の木から落ちてきた。とてもいい匂い。

ケアンズで借りたレンタカー
ケアンズで借りたチャイルドシート

 こちらが今回の旅のおとも。後部座席にはカナとレナのためのチャイルドシート。
 ドライブに、買出しに、役に立ってもらおう。
 前回のパームコーブ滞在で、このエリアでアクティブに動くためにはレンタカーは必須だと悟った。増して思い通りに行動してくれない幼児連れではなおさらだ。

ケアンズのレンタカーオフィスのお隣は…
オーストラリアに太陽を呼ぶダンス

 上の二枚は、レナ(三歳)撮影。
 左はレンタカーオフィスの隣のコインランドリーの入り口。きしゃぽっぽが可愛くて撮ったらしい。右はダンスする姉(笑)。雨乞いならぬ晴れ乞いダンスなのだ。口に加えているのは呼子。なにやら宗教がかっている。



 レンタカーに乗り、朝食を取れるところを探してケアンズの町を流す。
オーストラリアの救急車?

 このカラフルなのはもしかして救急車?

 エスプラネードに出ると、今年できたばかりだという人工ビーチが見えてくる。
 ケアンズは海辺の国際観光地だが、ビーチリゾートが無いことだけが欠点といわれていた。ハイウェイを北へ向かえば転々と美しいビーチが存在するのだが、市内から見る海岸は、砂浜ではなく泥地だ。この一帯は貴重な海鳥の生息地としてなくてはならない湿地帯であり、それはそれ失ってはならないものなのだが、気軽に海遊びができるようにと、この夏ついに人工のビーチがオープンした。
ケアンズの人工ビーチ
ケアンズの人工ビーチ

 人工ビーチ…というか、ほとんど海に面したプールだね。
 でもロケーションが良いから本当に気持ち良さそう。早朝でも泳いでいる人たちがいる。
 今日の朝食はテイクアウトしてこのビーチ前で食べようか。

 水着になって遊ぶ遊ぶと騒ぐ子供たちをなだめすかして車に戻る。
 これからホテルに行って一休みしたら、いくらでもホテルのプールで遊べるからと説得する。

 車が走り出すと、子供たちはご機嫌で歌を歌い始めた。
 窓の外は快晴。暑い日ざしと乾いた空気。今まで雨季のケアンズしか知らなかった私たちは何だか違うところのようだと笑いあった。
オーストラリア最長の国道は世界最長の道


 予定ではホテルのチェックインまで間があるので、途中でハートレーズ・クロコダイルアドベンチャーといういわゆるワニ園で遊んで行こうと思っていた。
 場所がケアンズとポートダグラスのほぼ中間というのがグッドだったのだ。
 ところがまもなく子供たちが二人とも寝入ってしまった。無理もない。夜は遅く朝も早く、しかも機内ではぐっすり眠れるわけが無い。というか、大人二人ははっきり言ってもっともっと眠い…。
 ワニ園もそれなりに面白そうだが(子ワニを抱っこさせてくれるのだ)、子供たちを無理に起こして不機嫌状態で遊んだって楽しくもなんともない。ここは方向転換、綺麗な景色を楽しみながらのんびりドライブすることにしよう。

 ケアンズは小さい町で、町を抜けるのはあっという間だ。あとは南国らしい椰子の並木が続き、頻繁にラウンドアバウトが現れては消えていく。ラウンドアバウトの分岐は、ハイウェイからビーチへ向かう道。
 ケアンズを離れると、Machansビーチを先頭に、Hollowaysビーチ、Trinityビーチ、Kewarraビーチと、次々美しい砂浜が連なっている。
 Cliftonビーチの表示を過ぎると、見覚えのある看板。動物園ワイルドワールドだ。前回パームコーブに泊まったとき遊びに来た。ということはもうすぐそこがパームコーブだ。泊まったホテルはノボテルで、このときは大人4人でキャプテンクックハイウェイを歩いてワイルドワールドへ来たのだ。あの日もケアンズに到着したその日で、寝不足でぼうっとなったままふらふらとした足取りで動物園へ来たんだっけ。

 パームコーブとエリスビーチの間に小さな岬がある。
 地図で見ても岬の名前もその隣のビーチの名前も出ていなかった。でもそこには美しいビーチがあった。小ぢんまりとした駐車場があったので車を止めると、看板。遊泳は禁止らしい。
ケアンズを離れて、ビーチへ


 駐車場から小道が延びていて…
ケアンズの近くには素敵なビーチがいっぱい
 タオルを持ったカップルが進んでいく。
 ついていってみよう。
オーストラリアの海はこんな色
 視界が開けて海が見えてきた…。
リゾートらしい景色

 うわぁぁぁ、すっごぉぉい。

 ひと気の無い何処までも続く砂浜。目の前にはDoubleアイランド。
 いきなりこんなだもんなぁ、やっぱり凄いぞオーストラリア。

 行くはずだったハートレーズ・クロコダイルアドベンチャーを過ぎて、次の見所が見えてきた。
 Rexルックアウト
 そこはカーブの続く高台で、グライダーが何機か飛ぶ準備をしている。
レックス・ルックアウトで風を待つパラグライダー


レックス・ルックアウトの絶景

 これはまた絶景かな。先ほどの岬と入り江、白い砂浜に打ち寄せる波。海は深さによってアクアマリンから濃紺までさまざまに表情を変える。

ここはキャプテンクックハイウェイ

 良い風が来るのを待っているのか、準備に余念が無い。
 こんなところで飛べたらきっと気持ちがいいだろうな。空と海に吸い込まれそうだ。



 ポートダグラスは今でこそ高級リゾートのイメージが強いが、元々は金の積み下ろしで栄えた港町だ。
 賑わっているのは海に近いマリーナミラージュの近辺くらいで、あとは緑の中にホテルやロッジが点在しているという感じだ。
ポートダグラスのアイアン・バー

 メインストリートから近いバーのひとつ。レトロな外観が一目を惹くアイアンバー。

 ポートダグラスのスーパーマーケット、コールズでとりあえず一日分の食料を買い出して、ホテルへ向かうことにした。
 旅行会社に渡されたツアーの説明書には、チェックインは午後2時となっていたが、ネットで調べた情報では昼の12時から可能と書かれていた。
 今はまだ昼過ぎ、もしかしたら入れてくれるかも。

 聞いてみたらOKとのこと。
 子供たちはまだ寝ているから助かった。
 でも本当のチェックインが12時からなら、益々ツアーの有料アーリーチェックインなんて申し込むだけばかばかしいというものだ。

リッジスリーフリゾートのヴィラ

 ここが私たちの部屋の前。

リッジスリーフリゾートのヴィラのリビング
リッジスリーフリゾートのコンドミニアムの室内

 前に泊まったノボテル・パームコーブなどと比べると、少し痛んでいる感じ。でも広く明るく設備も整っていて申し分ない。
 キッチン、洗濯機はもちろん、食器洗い機も衣類乾燥機もついている。一階にシャワールーム、二階にバスルーム。寝室も二部屋あって、ダブルとツインだ。4人家族で過ごすのに最適。

VBヴィクトリアビターのビールとTwo Dogsそっくりのレモン発酵酒
ベジマイトを忘れずに

 一日分の食料として、パパが買ってきてくれたものの一部を公開。
 豪州においてパパの好みはVBことビクトリアビター。私は豪州産として日本で売られているTwoDogsがほしかったが、右側のボトルは似ているが名前が違う(サイズも)?。豪州といえばベジマイトも忘れずに。これをオージーはパンに塗るが、パパはご飯にならいけるかも、ビールのつまみにはなかなか…と称す。

リッジスリーフリゾートのヴィラのラグーンプール

 ホテルには5つのラグーンプールがある。5つと言ってもまあまあの大きさがあるのは二つだけ。あとはごく小さい。
 これは二番目に大きいプール。

リッジスリーフリゾートのラグーン・プールで遊ぶ子供たち

 カナはホテル到着と同時に目をさました。いつまでも寝ているレナも途中で起こして、プールに連れて行く。かなり水は冷たいと思うけど、でも子供たちは大喜び。

 ところでこの日、カナはホテルの敷地内で不思議な鳥を見つけたよ。
 丸くて茶色くて目は黄色。足が長くてオレンジ色。飛ばないでてけてけと歩く。大きさはレナの半分くらい…。
 目にしたカナは初めて見る生き物に目がまん丸になってしまったらしい(パパ談)。
 部屋に戻って一心不乱にその鳥の絵を描いていた。
 この鳥にはまだそのあとも会うことになる。そのうち図鑑を買って名前を調べてみよう…。



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