今これを書いているのは
ケアンズ近郊のリゾート地、
ポートダグラス。
赤い大地オーストラリア、常夏の楽園ケアンズは既に3度目だ。
国際的なリゾートであり、グレートバリアリーフと熱帯雨林という二つの自然遺産のゲートウェイとして名の通るケアンズ。けれど最初に訪れたそのときから、のどかな海沿いの田舎町として、また、大好きな場所として心に刻み込まれた。
あれから何年が過ぎただろう。
今もあの町は変わらず、明るい太陽と垢抜けない陽気さをもって私たちを迎えてくれるのだろうか。
2003年5月24日(土)
成田-ケアンズ便は往路は夜間飛行だ。カンタスまたはJALでケアンズに経由してシドニーに向かう便は、成田発便の中でも出発が遅い部類に入る。第二ターミナルの混雑も、夕暮れが濃くなるにつれ人影もまばらになり、いつのまにか大荷物を抱えて時計を見る旅客も、豪州かハワイへ休暇を楽しみに行くファミリーや新婚旅行客ばかりとなっている。
二度目にケアンズを訪問したときはお正月休暇で、大晦日の夜に出国した。
そのときのアルバムはこの言葉で始まる。
「除夜の鐘がなる頃、私たちは空の上にいる…」
今回は初の子連れ旅行だ。というか、出産以来、まだ海外に出たことが無かった。パスポートも期限切れで、今回新たに作り直した。
カナ5歳、レナ3歳。国内旅行の達人だが、果たして初めての海の向こう。どんなわくわくどきどきが待っているのだろうか。
子供たちにちょっと聞いてみた |
オーストラリアで何が一番楽しみ?
■カナ
コアラを抱っこすること
(うーん、ありがち?)
■レナ
カンガルーを抱っこすること
(カ、カンガルーを抱っこするのかい?)
うん、レナ、カンガルーの赤ちゃんを抱っこするよ
(赤ちゃんはお母さんの袋の中だと思うが…)
レナがカンガルーの物まねをしてくれた
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パッキングは一週間ぐらい前からちまちまと詰めて、当日はゆっくり起きて午後3時半に自宅を出た。
首都高は順調で、あっというまに成田空港に到着。
駐車場に自家用車を入れて、バスでターミナルまで送ってもらう。
ねぇ、これからどこにいくの? 飛行機に乗るの? レナはもうわくわくだ。
カナは沖縄と北海道、レナは北海道だけ飛行機で行ったことがあるけれど、もうだいぶ前だから覚えていないよね。
入り口で検問がある。パスポートを見せればOK。久しぶりの海外旅行にちょっと身が引き締まる。
荷物はこれだけ。
キャンバス地の大型スーツケース一個に、私とパパが手荷物を入れたデイパックを背負う。あとはA4ノートパソコンを入れたバッグだけ。子供たちも一応リュックを背負っているが、中身はハンカチと人形ぐらい。
実はこの大型スーツケースは前回ケアンズに来たときに購入したものだ。その後、国内旅行などで酷使し、あちこちがたがきている。今回ケアンズで良いのがあったら買い換えて帰国しようという魂胆だ。
少し前から中国等で大流行している新型肺炎SARSの影響で、成田空港でも1/3ぐらいの人はマスクをしていた。日本人の年配者と新婚旅行らしいカップルに多く、外国人や子連れファミリーは、していない人がほとんどだった。していても、話をするのに邪魔だからマスクを下ろして歩いている人も多く、果たしてどれほど効き目があるんだろうかという気がした。
いつも個人旅行で行っているため、今回は初のツアー旅行になる。といっても中身は航空券とホテルだけだが、それでもチェックインなどは団体扱いだ。
何だか新鮮…。
SARS騒ぎで飛行機はがらがらかと思ったが、ケアンズは経由地でシドニーまで行く便のため、案外乗客は多いらしい。
空港に着いたのが早すぎて、出国手続きを終えてもまだ3時間以上余裕があったので、子供たちをプレイルームで遊ばせる。
名前や国籍を記入すれば、無料で入れる。ちょっとした遊具や、絵本、ディズニーのビデオなどがあって結構楽しめる。今日は朝から準備で、公園などに連れて行ってやれなかったからカナとレナはもう夢中。早速二人並んで靴を脱ぎ、遊具によじ登る。
ここの楽しいところはまた、多国籍なところ。いろいろな人種の子供たちがいる。小さい子供たちは言葉が通じなくても一緒に遊べちゃったりするんだね。
子供たちにちょっと聞いてみた |
プレイルーム、面白かった?
■カナ
うん。何を言っているか判らない(外国語をしゃべる)子たちがいた。 |
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いよいよ搭乗手続き。
カンタスとJALのコードシェア便で、今日はカンタス機が飛ぶらしい。
エコノミークラスでも、小さい子供を連れている家族は優先的に案内してくれる。
ありがたく一番に乗り込ませてもらう。
レナは3歳にしても小柄なので、シートベルトをしても座席から滑り落ちてしまいそう。
乗り込むとすぐにキッズ用の文房具セットを持ってきてくれた。
ウォレスとグルミットシリーズだ。ファンなら子連れでなくても絶対ほしいと思うだろう。ウェストポーチやトランプ、色鉛筆、塗り絵ゲームブックなどがセットになっている。
離陸は8時55分。
既に濃い紫の闇が落ちた空港をジャンボジェットは加速し、ふわりとした浮遊感と直後に軽いGがかかる。窓の外は夜景だ。長い長い夜の始まりだ。
夜便なので、夜食が出る。
予約時に、キッズミールが頼めるとあったので、カナとレナの分を頼んでおいた。
ありがたいことに、水平飛行になるかならないかですぐに子供の分だけ持って来てくれた。
もう夜の9時を回っているから、一応空港で軽い夕食は済ませていた。だが興奮した子供たちには、飛行機に乗ったらご飯が出るからそれを食べたら寝なさいと教えていた。キッズミールが来るのは早ければ早いほどありがたい。
左が子供用の夜食。右が大人用の夜食。パンとプレッツェルはとっておいて、朝食べることにした。
レナは少し食べて、「眠い…」と言ってあっというまに寝てしまった。
カナはまあまあ食べて、やっぱりすぐ寝てしまった。
子供たちが寝てから大人の食事は配られた。私もパパも、肩の荷が下りて、ゆっくり夜食を食べることができた。
これでめでたしめでたしと思うでしょ。
違うの…。地獄はこのあとから。
やがて室内灯が消され、大人も寝る体制に入った。
しかし私たち家族は3列4列3列の席の、真ん中の4列に座っていた。カナはパパの席まではみ出して横になり、レナはママの席まではみ出して横になっている。さあ、私たちは何処に寝たらいい?
混んでいるとはいっても、各列2~3席の空きはある。パパは隣の3列席の一つに移り、寝ることにした。私はレナの足元に寝た。レナが転げ落ちてもクッションになるかと思ったのだ。
寝るのが早かったレナは、大人しく寝付いていず、何度も夜中に泣いた。周りの人に迷惑だと思うと、何とかして泣き止んでほしいのだが、本人寝ぼけているし、席は狭く、機内は轟音、パニックを起こしてなかなか泣き止まない。
3度目の夜泣きの時に、トイレに連れて行った。間に合ってよかったが、それだけが理由ではなかったらしく、その後も何度か泣いた。
やっと寝付いたかと思うと、今度は乱気流だ。消灯後だというのにシートベルト着用サインが点滅。
そういえば、UKの帰りの便だかで嵐に遭遇したことがあった。窓の外をいくつも、雲の間を縫って縦に稲妻が走り、怖いながら綺麗だった。
そんなのはまだよい。
酷かったのは仕事でUSAに行ったときだ。サンフランシスコ発のユナイテッドは、水平飛行に入ってしばらくして放送を入れた。
サンフランシスコ空港を飛び立った後、滑走路に車輪が落ちていた。落とした可能性のあるのはそのとき離陸した3機で、うち1機が当機だ。万が一着陸時に車輪が無かったら、場合によっては胴体着陸の可能性もある…。
…勘弁してよ。
ぴりぴりしたスチュワーデスたちは、足元にはみ出した荷物があると、長い足で蹴りをいれて元に戻してくれた。
結局車輪を落としたのは違う機であったらしく、私の帰国便は無事成田に到着した。着陸滑走路付近にぞろぞろと消防車と救急車が待っていたのが見えた。ドスンと車輪が大地に接地し、ブレーキと共に何事も無く重い機体が動きを止めたときには、どこからともなく乗客の拍手が沸いてきた。
思えばあの時はトラブル続きだった。
用事があったのはカリフォルニア州都のサクラメントで、サクラメントから成田へ戻る場合、サンフランシスコかLAで乗り換えるのが一般的だ。
帰国日の朝、サクラメントの空港へ行ったら、霧のためサンフランシスコへの便が飛ばないという。それでは困ると何人かの客が窓口に詰め掛けていた。
私の職場では海外出張は普通はビジネスクラスを使うが、たまたまそのときは若いもんはエコノミーで行けと、試験的にエコノミーのしかも格安航空券で行かされていた。いかなる事情があろうと、私の持っている航空券では、予定したサンフランシスコ発の帰国便に乗れないと、他の便に振り返るあては無いと言われていた。どうにかして昼までにサンフランシスコに行かねばならなかったのだ。
一行にリーダーとして某国立大の助手の先生がいらした。彼はとっさに窓口に詰め掛けていた客の中から、同じくサンフランシスコに行く目的のある別の女性と話をつけた。
「レンタカーでサンフランシスコまで行くぞ」
「レンタカーは勘弁してください。事故がおきたとき責任が取れません」と私。
とはいえ残された時間は3時間ぐらいしかないのである。
「だいたいいきなり米国でレンタカーで高速なんて走れるんですか?」
「大丈夫、彼女が運転する」
身も知らぬ他人ながら、やはり昼までにサンフランシスコに行かねばならない女性と交渉し、経費はシェア、運転は任せるということにあれよあれよと言う間に決まったらしい。
その足でレンタカー屋に行き、30分後にはハイウェイを飛ばしていた。
単に飛行機で乗り継ぐはずだったサンフランシスコ。霧の中、ゴールデンゲートブリッジを通って、私は摩天楼を目の当たりにした。
話が脱線した。
そのくらい飛行機というのはトラブル続きなのだ。
乗った回数は数えるほどでも、なぜか笑い話にはことかかない。
今回もやっとうとうとしたかと思うと、青い光に起こされた。
スチュワードが言っている。床で寝てはいけない。シートに上がりなさいと。
そりゃ、安全性や衛生面から床で寝るのは好ましくないだろう。…しかしどこで寝れば…と子供の寝顔を見て思う。
しかたなく前列に移った。前列の4席は、一つしかうまっておらず、空きがある。
やっと静かに寝られる…と思ったのもつかの間、
ドスン!!
振り返るとレナが座席の下に転落していた…。
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二日目「キャプテンクックハイウェイを海沿いに北へ・・・」