海風が吹いている。
メモリアルロードはさつき荘などのある通りより陸側で高い位置に作られた遊歩道だ。両側の手すりが鮮やかな水色に塗られている。
石畳の遊歩道はやけに真新しく綺麗で、ここと海とを隔てる年季の入った温泉街とは一線を画しているように見える。
途中一部分だけ線路のようなものがあって足湯に着いた。
足湯には「幻の大間鉄道」という説明プレートが貼ってあって、これを読んで初めて何故下風呂に鉄道用の高架橋があるのか理解した。
大正時代に計画され、昭和初期に国鉄大畑線として開業した路線は、下北半島の林業や水産資源の開発に資するため下風呂を経由し大間、さらには北海道まで結ぶよう工事が続けられたが、一部の基礎工事が終わった段階で放り出された。戦後はそのまま忘れ去られたようだ。
プレートの説明文はこう結んでいる。
「昭和18年2月突如として工事が中止となり、数十年の間放置されたまま現在に至っている」
もし鉄道が通って、下風呂に駅ができていたら今とは違った景色が見えていたかもしれない。
少なくとも、昨夜聞いたように昔の龍神祭には200艘もの船が集まったという下風呂港は、こんなに寂れることはなかっただろう。
メモリアルロードの足湯には少し緑がかった白濁湯が入っていて、分析表を見ると確かにさつき荘と同じ海辺地2号泉だった。
ちょうどここと海とを直線で結ぶ途中にさつき荘がある。
さつき荘は大湯や新湯を引く旅館より一軒だけ少し西側に位置しているのだ。
昔からある温泉街にありがちだが、大規模な旅館や新参者の旅館が無いここには、せっかく海の傍でありながらも、昨日の湯ん湯んのような海一望の絶景露天風呂のような施設は無さそうだ。
それだけに高台から海を見おろす公共の足湯は、お湯を楽しみながら景色を眺めるのに良いスポットだと思った。