子連れ家族のための温泉ポイント
- 温度★★☆☆☆ 泉質★★★☆☆ お湯は少し熱め 、濁り湯で深さが判らないので注意
- 設備★★★★☆ 雰囲気★★★★☆ 浴室は貸切利用なので家族で使うのに最適
子連れ家族のための温泉ポイント
昔は下風呂温泉の湯は黒かった。
その頃下風呂で宿を経営していた何軒かはやめてしまったが、さつき荘は残った。
そしていつしか下風呂のお湯は白くなったらしい。
そんな話を泊った夜、さつき荘のご主人の弟さんが切り盛りする居酒屋で聞いた。
さつき荘の女将さんも、今でも時々前触れなくお湯が黒っぽくなることがあり、今はインターネットなどでそのことも知られて、むしろ貴重な状態だと思われているようだと言っていた。
黒かったころはそれを敬遠するお客さんも少なからずいたようで、苦労も多かったと思われる。
さて、さつき荘は、大湯又は新湯の源泉を引く宿の多い下風呂温泉街の中でも希少な海辺地2号泉を引く宿だ。
一か月ほど前に予約を入れた時、とにかくあまりにも女将さんが親切で、電話でもあれやこれや世話を焼いてくれて、単なる予約電話のはずが何故か10分近く話し込んでしまったという経緯がある。
予約電話最長記録だった。
外観は 小ぢんまりとしているが、旅籠風の渋墨塗の洒落た外観に、赤い提灯が下がっている。
しかし提灯に染め抜かれている文字は、「温泉」でも「旅館」でもなく「酒処」。
玄関とロビーは和風のような多国籍のような不思議な感じだったが、とにかく物が多すぎて狭く見えた。
部屋は二階。
階段や廊下の意匠も気さくながらどこかデザイナーズ系の宿のようなセンスを感じる。お決まりの作りではなく、ここはこうしたいとわくわくと楽しんで作られたような。
部屋の入口に風流な暖簾が掛かっているのも面白い。
ちゃんとドアはあるけど、暖簾を潜って部屋に入る。
でも部屋の鍵は内側から針金を差し込むだけの簡易なタイプ。
部屋の中は旅館と言うより民宿風で、板の間は無く、ガラスケースに入った日本人形などが飾られていて、二間続きで奥の部屋にはすぐにでも寝転がれるように既に布団が敷いてある。
その掛け布団の端を三角に折り曲げて持ち上げてあるところがまたちょっと洒落ている。布団の角も部屋のデザインの一部になっている。
チェックインするとすぐにご主人が甘酒を運んできてくださった。
ウェルカムドリンクが甘酒というのも初めて。
その後ご主人は浴室を案内して下さって、この温泉はアクセサリーなどを付けて入るとこうなっちゃいますからと黒く変色した指輪を見せた。
女将さんならともかくご主人がその説明のために常に指輪を持ち歩いていることを想像するとやるなと思うけど、百聞は一見にしかず、大変合理的でもある。
その浴室はと言うとこれが非常に素敵なお風呂なんだ。
客室の廊下の突き当たりに外に出るドアがあって、その横に「どうぞお入りください」と朴訥な筆で書かれた木の札が下がっており、使う時はこれを裏返す。
浴室は一つだけで貸切使用だ。予約制ではなく、誰も使っていなければ自由に使える。
いったん外に出て、外と言っても屋根はあるし隙間のような通路だけれども、そこを通って木造の湯小屋に入り、階段を昇って浴室。
戸を開けると思わず感嘆の声を上げて、その後溜息が出ちゃう。
湯治場のような板張りの浴室で、中央に四角い浴槽。
硫黄成分のせいか壁の上の方や天井が剥げかけたペンキのように白く染まっている。
お湯は真っ白。白っぷりが凄い。意図があってか縁の内側の一部がセルリアンブルーに塗ってあるので、その色がついているぎりぎりまでお湯が入っているんだけど、お湯自体がまるで青白く発光しているようにも見える。
もちろんこれはすぐに入るしかない。
ご主人の案内が終わったら、二人して浴室に取って返す。
あのお湯に入れると思うといてもたってもいられない。
わくわくどきどき。
ざばっとお湯を掛けると、気持ち熱めの湯。
浴室の床も全面板張りで、少しすのこ状に開けてある隙間に掛けたお湯が吸い込まれていく。
火薬臭が強い。においに於いてさつき荘に来る前に入ってきた桑畑温泉湯ん湯んは目じゃないレベル。
熱めでさっぱりするぐらいの温度なので、入るのに躊躇するほどではない。
ふーっ。
真っ白なお湯の中で手足を泳がせてみる。
至福と言うか、はるばる下北半島の先までやってきた甲斐があるとまさにそう思える。
さらさらした肌ざわり。風が入ってくる湯小屋の作りもありがたい。
入っているうちにだんだんと外は黄昏てきたようで、浴室も薄暗くなってきた。
それまで気付かなかったが、天井近くの壁に取り付けられた灯りがここにいるよと主張を始めた。