その浴室はと言うとこれが非常に素敵なお風呂なんだ。
客室の廊下の突き当たりに外に出るドアがあって、その横に「どうぞお入りください」と朴訥な筆で書かれた木の札が下がっており、使う時はこれを裏返す。
浴室は一つだけで貸切使用だ。予約制ではなく、誰も使っていなければ自由に使える。
いったん外に出て、外と言っても屋根はあるし隙間のような通路だけれども、そこを通って木造の湯小屋に入り、階段を昇って浴室。
戸を開けると思わず感嘆の声を上げて、その後溜息が出ちゃう。
湯治場のような板張りの浴室で、中央に四角い浴槽。
硫黄成分のせいか壁の上の方や天井が剥げかけたペンキのように白く染まっている。
お湯は真っ白。白っぷりが凄い。意図があってか縁の内側の一部がセルリアンブルーに塗ってあるので、その色がついているぎりぎりまでお湯が入っているんだけど、お湯自体がまるで青白く発光しているようにも見える。
もちろんこれはすぐに入るしかない。
ご主人の案内が終わったら、二人して浴室に取って返す。
あのお湯に入れると思うといてもたってもいられない。
わくわくどきどき。
ざばっとお湯を掛けると、気持ち熱めの湯。
浴室の床も全面板張りで、少しすのこ状に開けてある隙間に掛けたお湯が吸い込まれていく。
火薬臭が強い。においに於いてさっきの湯ん湯んは目じゃないレベル。
熱めでさっぱりするぐらいの温度なので、入るのに躊躇するほどではない。
ふーっ。
真っ白なお湯の中で手足を泳がせてみる。
至福と言うか、はるばる下北半島の先までやってきた甲斐があるとまさにそう思える。
さらさらした肌ざわり。風が入ってくる湯小屋の作りもありがたい。
入っているうちにだんだんと外は黄昏てきたようで、浴室も薄暗くなってきた。
それまで気付かなかったが、天井近くの壁に取り付けられた灯りがここにいるよと主張を始めた。