8.お湯の温度差じゃなくて意識の温度差のハナシ
階段を上がると、いったん外に出るようになっている。
屋上のスペースという感じ。
左手にまず男湯があり、その先に女湯。
絶対最初から浴室にするつもりでデザインしたとは思えない、教室のような部屋。
そこに子供用プールのような妙なお風呂がぽかっとあり、仕切の壁もなく脱衣所。
窓の外にはどんな景色が見えるのかと思えば、これがまたゴルフ練習場。
まあ打ちっ放し練習場の施設に温泉があるのだから無理ないが、展望風呂と言われても、あまりこの展望では面白くないような気もする。
この展望風呂はシャンプー、石鹸などの使用は禁止となっていて、お湯は掛け流しに見えるがえらくカルキ臭い。
今度は地下に降りてみた。
やはり地下ということで窓が無い分圧迫感を感じる。
何故か脱衣所の隣にも男女別の休憩室などがあって不思議な作りだ。
お風呂はジェットバス、サウナ、水風呂などそろっている。
「あれなぁに?」
レナが興味を示したのは打たせ湯。
どぼどぼと落ちる湯の隣にプラスチックの白い椅子が置いてある。
「なんでお風呂の中に椅子があるの?」
うーん、こうやって使うんじゃないかな。
椅子をずらして打たせ湯の下に置いてみた。そこにレナを座らせる。
「きゃあ」
湯を後頭部で受けてしまい、笑い出すレナ。
よくジェットバスや打たせ湯を使っているとのぼせてしまうのだが、こんな風に椅子に座って打たれれば、上半身はお湯から出ているからのぼせにくくていいかもしれない。
鹿島園温泉のお湯は弱アルカリ性単純泉だが、強いきしつきと湯上がりにべたべたする感じがあり、土類的な印象が強い。非常によく温まる。
ただカルキの臭いがきつくてプールみたいに感じるのが残念だ。
足利鹿島園温泉は館内のあちこちに大きく「掛け流し」だとか「源泉流しっぱなし」だとか書いているが、成分分析表の下にだけ取って付けたように「加熱・循環・塩素投入」をしていることとその理由について書いてあった。
別に循環・塩素投入を行っても良いが、それで「掛け流し」とか「源泉流しっぱなし」とか言うのはどうだろう。
ちょっとこういうところに、施設と利用者との温度差が見えるような気がする。
最近は湯船から溢れていれば「掛け流し」と呼ぶのが正しいと思いこんでいる施設が多いようだ。
元々は循環か非循環かを区別するために生まれた言葉のはずが、提供する側に都合がよいように言葉だけが一人歩きしているような気がする。
カナとレナがサウナに興味を示したので入ってみた。
テレビが設置してあり、壁に砂時計もついていた。
カナが砂時計をひっくり返した。
「これどうするの?」
「自分が入っている時間を計るためだよ」
「じゃあ砂が落ちるまで入っている」
母は砂が落ちるまで耐えられなかった。
「ごめん、先に出ているわ。あなたたちも苦しくなったらすぐに出るんだよ」
心配なのでサウナの入り口に立って待っている。ドアにガラスがはめ込んであるから中は見えている。
妙に砂が落ちきるまでかんばらなくてはいけないような気になっているのか、二人とも最後まで粘った。
「ああ、暑かった」
砂時計の上半分が空になってから出てきた。
よくがんばったねぇ。
しかし、妙なところでかんばるねぇ、キミタチ。