山の稜線に太陽が隠れようとしている。
台温泉は花巻温泉の先にある。花巻温泉は大型旅館が林立しているイメージ。温泉街の入口には「歓迎 花巻温泉」と書かれた立派なゲートがあった。
台温泉はそこは潜らず横に逸れる。
そして見えてきたのは先ほどの花巻温泉の大型ホテルとはまるで雰囲気の異なる温泉街だった。
鄙びた山あいの蛇行する細い道沿いに、湯治宿と思われる煙ですすけた古い小さな宿が並んでいる。群馬の四万温泉よりもずっと素朴で、山口の俵山温泉よりもずっと山深い。
いいねいいね、こういう雰囲気大好き。
でもイメージしていた中嶋旅館の雰囲気とは違う。本当にこの奥に中嶋旅館があるのかな?
どこ? どこ? もっと奥?とか言いながら、カーナビと車窓を見比べながらゆっくりと私たちの車は温泉街を進んでいった。
ようやく中嶋旅館の駐車場を見つけた。道の右側だ。そしてその隣に中嶋旅館が建っていた。ここにきて初めて中嶋旅館の外観を見た。そりゃ凄かった。何だかそこだけ時代が違った。
聞けば築100年近くの木造4階建てだと言う。
手前の湯治宿がほとんど2階建ての低層だったからなおのこと、斜面を背にして立つその威風堂々とした姿はひときわ目を引いた。