7月25日(木)
午前四時。
霧のような雨が降りしきる東京を発つ。
子供達は車中で寝かせておく予定が、嬉しさで待ちきれず、二人とももう目は爛々。11日間の旅が始まった。
濡れそぼる街を抜けて、空が白み始める頃には車は既に南東北にさしかかっている。宮城県国見SAで朝食。興奮した子供達はあまり食べたがらない。
高速道路の脇には、ところどころに野生の白い百合。百合は原種でも十分に美しかったため、長らく園芸品種が開発されなかったと聞く。どの百合も崇高で猛々しい。
雨はやんでときおり陽が射したり、またいつの間にか雲が空を覆い尽くし小雨がぱらついたり、500キロも高速を走る間には、天候もくるくると移り変わる。
花巻南ICで降りて、花巻温泉郷へ車を走らせる。
あたりはすっかり緑のアップダウンだ。
志度平温泉、渡り温泉を過ぎると、やがて目的の
大沢温泉が見えてくる。
今回、大沢温泉、鉛温泉、台温泉の三つのうちから選んだ。鉛温泉も台温泉もとても入りたかったので後ろ髪を引かれるが、ドライバー・パパの体力や、朝4時起きの子供達のことを考えると、一湯がせいぜい。
大沢温泉には、山水閣(新しくて高級)、菊水館(茅葺き屋根で古い)、自炊部(そのまんま)と三つの宿泊施設がある。
画像は自炊部の入り口。
張り紙がある。
「大沢の湯(露天風呂)は清掃中のため入れません」
いきなり先制攻撃を受ける。…うーん、大沢温泉と言えば川沿いの露天風呂というイメージがあるだけにどうするか。
とりあえず車を降りて聞きに行く。大沢の湯以外の半露天風呂や内湯は入浴可能。大沢の湯は、12時半ぐらいまで入れないとのこと。
現在11時少し前。待つには一時間半は長いし、何より、子供達はお風呂に入れて昼食を取らせれば、間違いなく爆睡するだろうから、今、入浴してしまうのがベストだし、そもそも混浴の無色透明露天風呂に、いきなり入る勇気があるかという問題もあるので、このあたりで手を打つべきかもしれない。
早速向かったのは、山水閣の半露天風呂だという豊沢の湯。
脱衣所も明るく非常に綺麗。造りも新しく、掃除も行き届いている。
何故か赤ちゃん連れが多い。私たちが入ったときに、三組ぐらい、入れ替わりにあがってきた。
脱衣所の中央に、四角いスペースがあって、周りに座るも良し、ここで赤ちゃんを寝かせて着替えさせるも良しという感じだ。
半露天風呂というのでどんな感じかと思ったが、一面全て吹き抜けなので、感覚的には露天風呂に入っているのに近い。開閉できるようになっているので、冬や悪天候の時は閉めて、内湯のように使うのだろう。とにかく湯に浸かりながら川がよく見えるというのはポイントが高い。新緑がまぶしい。
モデルは、四歳のカナ(笑)。
湯は無色透明。わずかに灯油のような匂い。味はほとんどなし。
それほど熱くないが、びっくりするほど温まるので、まったく長湯ができない。
深さは少し深めで、二歳のレナはまったく足がつかないが、片側が階段状に浅く作られているので、子供連れにも嬉しい。
湯口からはざあざあと湯が出ているが、湯口でも適温で、火傷しそうなことはない。
それほど強くないにゅるにゅる感あり。
のぼせると、川側の岩の上で涼む。
いつものようにレナは脱衣所で、年輩の方々に声をかけられる(カナはパパと男湯だった)。いくつ? お名前は? 最近とみに恥ずかしがり屋なのか、後ろに隠れてしまうレナ。
大沢温泉の子連れにありがたいポイントは、和室の休憩室もあることだ。
とはいっても、これほど本格的な和室!?には滅多にお目にかかれないかも。レトロ感たっぷりの家具や調度品。テーブルもいい色。ただ、小さいので、週末など混雑すると入れないかも。食事どころやお土産物屋も揃っていて、何かと便利。
大沢温泉。外観以外、期待していたような秘湯らしさはなかったが、品のいいよく効く湯だった。夜まで肌は強烈につるつる。
水分補給の後、食事にしようかと思ったが、眠気の先に立つ子供達は、車に戻って寝たがる。仕方がないので先を急ぐことにした。
発進すればあっという間に夢の中。
今夜の宿泊地は遠野。
チェックイン時間まではまだ間があるので、まっすぐカッパ淵へ向かった。
いつの間にか天気は良くなり、いつか見たような夏休みのイメージそのまま、真っ青な空に白い雲が浮かんでいる。
この地のカッパは、悪戯ばかりしていたが、改心して火事など消したりしていたらしい。常堅寺のカッパ狛犬を見た後、カッパ淵へと向かう。
え? ここにカッパがいるの? いないじゃん。人が見ていると出てこないんだよ、恥ずかしがりやだから。ホント?
一応、淵には大きなキュウリが紐でつるしてあります。カッパが釣れるように?
関係ないけどカッパ狛犬の後ろにあるお堂の中、のぞいたことあります? 怖いですよねー。
ところでカッパ淵に行く途中の道で、怪しげなものを発見。このどこかで見た著作権に引っかかりそうなネズミ?の像の他に、交通安全と書かれた甲良を背負ったカッパや、ウマやイヌの像もあり。
しかし、このナゾの○ッキー・○ウスもどきは何故か長い髪の毛が生えている(後ろ姿参照)。
ここまで来たので、次は伝承園に。
伝承園は、国指定重要文化財の南部曲り家を移築して、中を見学できるようにしてあるものだが、レストランも併設されている。
まずは遅い昼ご飯を。
リーズナブルなのに、結構なボリューム。名物「ひっつみ」と、「けいらん」を食べる。
伝承園は大人向けかなと思ったが、子供達も古いお家だと結構喜ぶ。染色、機織り、わら細工などを見せてくれる工芸館もあり、子供達にもきさくに声をかけてくれる。
今日、一番笑ったのは、この伝承館の曲り家でのできごと。
一番奥の部屋には千体のオシラサマが祀ってある。オシラサマというのは、遠野の民話で、ウマと恋仲になった女性が、父にウマを殺され、自分も死んでなったという、豊作や養蚕の神様なのだが、それを狭い部屋の全ての壁にぎっしりと祀ってある。
古い大きな家屋に興奮した娘達は、競ってその部屋に入り、とたんに肝を潰して飛び出していった。
「外で待っているから~」と言って、あっと言う間に廊下を曲がって姿を消してしまった。よほど怖かったらしい。
今日の宿泊先は、遠野駅の駅舎二階。
部屋からホームが見える。
子供達は一時間に一本くらいのディーゼル列車が通るたびに、窓に張り付いて大はしゃぎ。
たまには駅に泊まるのも面白くて良いよね。
夜のニュースを聞いていたら、今日は北東北の梅雨明け宣言。
娘達、晴れ女だね。
つづく