1.石畳に雨が降る
最終日 2004年11月15日(月)
石畳を冷たい雨がぬらしていた。
お天気は昨日までだった。
二階の窓から狭い通りを見下ろすと、青い傘の花がゆっくり渋温泉の方へ動いていくのが見えた。
朝風呂に行きたい気持ちはあったが、昨日あれだけ温泉に入ってしまったので何だかどっちでもいいような気がした。
昨夜の泊まり客は我が家だけだから、その気になれば男湯に設定されている竜宮風呂に入ることもできたのだが、何となく布団の中の居心地がよく、出る気になれなかった。
後でパパに聞いたら、竜宮風呂の窓を開け放つとちょうど赤く染まった紅葉が見えていい気分だったそうだ。
それを聞いて悔しくなった。
安代館にはまた来ると思うが、そのときちょうど紅葉の季節だとは思えないから結局見損ねてしまったことになる。
そう、安代館にはきっとまた来ると思う。
家族四人で気に入ったから。
なんかこう、居心地いいのよね。
朝食後、チェックアウトを済ませて、昨日の約束通り嶽心荘に案内してもらうことになった。
雨の中、わざわざ車を出してもらって申し訳ないなと思いながらもわくわくしていた。若女将さんが運転するマイクロバスの後ろを、自分たちの車でついていくことにした。
女将さんが外に出てお見送りしてくれた。
マイクロバスはすいすいと細い道を抜け川を渡り坂道を登って、10分ほどで鄙びた山間の温泉地に到着した。渋や湯田中とほとんど離れていないのに、荒天のせいかずいぶん奥まったところのような印象だ。
売店の前に数台止められる駐車場があり、そこで降りるのかと思いきや、駐車場脇の細い急坂をさらに登った。
坂の上に嶽心荘が建っていた。
茅葺き屋根の渋い建物で、威風堂々としている。
雨がかなり降っているので、玄関先まで車をつけさせてもらった。
若女将さんが鍵を開けてくれる。