「エビだぁっ」
勝ち誇ったように手の平に乗せて、子どもたちにそれを見せた。そして振り返ってヨーコさんときよしさんにも見せた。
・・・本当はここまで先走ってしまってはいけなかったのである。
ちゃんとこのツアーには順序というものがあって、まず岩の下に何かいると言うことに気づき、それから正体を明かし、その後、コップを配布して捕獲するという順番を経て、ここに至らなくてはいけなかったのだ。
でもそこまで考えていなかった私はいきなり素手で捕獲してしまい、シナリオが崩れたヨーコさんときよしさんは戸惑った顔をした。
私がすぐにエビの存在に気づきあっと言う間に捕まえてしまったのには訳がある。
この旅行記を始めから読んでいる人なら判ると思うが、昨日、私たちは名護から今帰仁に移動する途中、グリーンフラッシュビーチに寄り、岩場で遊んだ。
あのときに私は岩の下に小さな半透明のエビが沢山いることに気づき、これを何匹か捕まえた。
だからすぐに今回のときも正体に思い当たったのだ。
「エビだ、撮って撮って」
私はパパに呼びかけた。
「悪いけど手が塞がっているから私の代わりにデジカメ撮って。私の首からぶらさがっているから・・・」
パパはデジカメを私の首から外して操作しようとした。
「デジカメ、動かないよ」
えっ、嘘!!
「だって今、思いっきり水没していたよ。このデジカメ生活防水だろ? 完全に水に浸かっちゃうとアウトなんじゃないの」
げげーっ。
失敗した。
最初にも書いたが、持参したオリンパス機は水に濡れてもOKだが、水没はアウトなのだ。
私はふだんこれをポケットか鞄に入れていて、シャッターチャンスには即座に取り出して撮影するものの、しょっちゅううっかりと落下させるのでストラップを長くしてある。ストラップを首に掛けたまま、本体をポケットに収納できるぐらいに。
今回もストラップの長さはそのままで、カヤックを漕いでいる間はお腹の所でまるめてあるウェットスーツの上半身部分に挟み込んでいた。カヤックを下りてからは立って歩いていたので水面までは高さがあり心配ないと思っていた。
今回の「試練」でそのことを忘れてしゃがみこんでしまい、しかもエビを捕まえるのに夢中になって水没していることにも気が付かなかった。
デジカメはパパが起動した瞬間だけ動いてレンズが飛び出したが、そのままの状態でフリーズしてしまった。シャッターが降りるどころか、飛び出したレンズもそれきり仕舞えない。うんともすんとも言わなくなってしまった。
がーん・・・。
あまりのショックに目の前がくらくら。
役に立つ大事なカメラだったし、今日撮った写真も駄目になっちゃったかもしれない。
がっくり来ている私の横で、きよしさんがお茶を配り始めた。
小川の水の中でピクニックよろしくティータイムだ。
私の所にも麦茶の入った白いプラスチックコップが回ってきた。
ふー、と溜息をついて黙ってお茶にした。
くよくよしていても仕方がない。せっかく楽しいシーカヤック・マングローブツアーに参加しているんだし、今は壊れたデジカメのことは忘れよう。もしかしたら乾かせば動くようになるかもしれないし・・・。
みんながお茶を飲み終わったのを見計らって、ヨーコさんが言った。
「さあ、このコップを使ってエビを捕まえて下さい」
そう、こういう順番だったのだとこのとき私はようやく判った。
普通はコップでエビを捕まえるのだ。素手でいきなり捕まえちゃ駄目だって。
みんな夢中で岩の下を探り始めた。
こうなれば私は早い。
またまた一匹捕まえた。
「記念写真撮りましょう」きよしさんがコップを手にピースサインをする私を撮ってくれた。
えーい、こうなったらやけだ。捕まるだけ捕まえてやる。
あっと言う間に二匹目だ。カナやレナも捕まえてほしいというので、どんどん捕まえて子どもたちのコップにも分けてやった。
この小さなエビはテナガエビと言うそうだ。
私はたぶん数でいうとテナガエビを一番沢山捕まえたと思うが、Mちゃんはなんと小魚を三匹もゲットしていた。
魚には負けるー。どうやって捕まえたんだろう。きよしさんたちもこれには吃驚して「隠れた才能だね」なんて言っていた。
テナガエビすくいを終えた後、私たちはまたカヤックに戻った。
競争しながら漕ぐ
スタートした海辺の自然学校の浜まで戻るのかと思ったら、ヨーコさんはずっと手前の農場の岸にみんなを誘導した。
「みなさん、この農場で作っているものが何だか判りますかー? 実はドラゴンフルーツなんですねー。ここのドラゴンフルーツは特に美味しいんですよ。特にですね、便秘に効くというので全国から感謝のお便りが届いたりするらしいですよー」
へーと思ったがカメラがおしゃかになっているのでもう撮影はできない。残念。
遠目にも濃いピンク色のドラゴンフルーツがひとつふたつ生っているのが見えた。
ドラゴンフルーツの木は前に
OKINAWAフルーツランドで見たことがある。見るからにサボテンの一種だ。
最後に岸に上がったところで家族ごとに記念撮影。
帰りは大した距離じゃないけどマイクロバスで自然学校まで移動。
あっと言う間のカヤックツアーだった。
カヤックを漕ぐということや、漕ぎ方のレクチャーなど丁寧で面白かったが、動植物のガイドがまだまだ通り一遍で、正直なところ沖縄に数回来たことがあるだけの単なる旅行者の私でも目新しい説明が無かったのはちょっとだけ残念。ほとんど知っていることばかりだった。
プロのガイドはシオマネキやテナガエビの詳し~い生態や、生物学・分類学などからのアプローチ、歴史的なエピソードなど、引き出しを沢山持っているに越したことは無いと思うんだ。
これはたぶん今回ガイドしてくれたお二人もどんどん経験を積んでいくとそれだけ面白い説明ができるようになるということなのだと思うけど。
今後に期待なのだ。