19.カナとヤンバルクイナ
沖縄へ出発する前、カナはガイドブックでヤンバルクイナのイラストを見つけた。
やんばる地方を紹介する頁のあちこちを、茶色い頭と羽、白黒のお腹、オレンジ色のくちばしと足、そして目の下に白いラインのついたユーモラスな鳥が歩き回っている。
吹き出しには「ぼく、ヤンバルクイナ」と書かれていた。
「ヤンバルクイナって何?」とカナ。
「珍しい鳥だよ。沖縄にしかいないんだって」
「ふーん」
そう言えばちょっと、カナの好きなオーストラリアの鳥、
オレンジフッテッド・スクラブフォウルに雰囲気が似ている。
でもそのときは、カナがそんなにヤンバルクイナに会うことを楽しみにしているとは思わなかった。
期せずしてネオパーク・オキナワの国際種保存研究センターでヤンバルクイナの札を見つけ、にも関わらずヤンバルクイナそのものには会えなかったので、カナはショックでみるみる哀しそうな顔になった。
「じゃ、受付で聞いてみるよ。ちょっと待ってて」
国際種保存研究センターの受付でヤンバルクイナはどこにいるのか聞いてみる。
すると、
「ふうりん祭りが始まるので移動させちゃったんです」とお姉さん。
「移動って・・・じゃ、お祭りが始まったらお祭り会場の方で見られるんですか?」
「えーと・・・そうじゃなくて、お祭りの花火でヤンバルクイナが驚くといけないので、ネオパークから離れたところに先ほど移動させちゃったんです」
なに?
すると、なんだね。
今日に限ってヤンバルクイナは不在っていうこと?
「他にヤンバルクイナが見られるところはありますか?」
「ネオパークの中でもこのセンターだけなんです。他はちょっと判りません」
・・・。
「ヤンバルクイナに会えないの?」とカナ。
パパは意を決したように、「明日必ずパパが、カナをヤンバルクイナのいるところに連れていってあげるよ」と言った。
パ、パパ、そんな安請け合いして大丈夫か?
ヤンバルクイナはそうそうその辺にはいないぞ。
「約束?」
「約束だよ」
気持ちは判るが、どうするつもりだ?