9.手を繋いで
レナと手を繋いで泳ぎだそうとしたら、カナも一緒に行くと言いだした。
意外だった。
シュノーケルセットと浮き輪はそれぞれ2セットしか無かったから、今までは二人一組でないとシュノーケルに行かれなかったが、子供たちは浮き輪からなんちゃってライフジャケットにチェンジしたし、カナはさっきもだがシュノーケルセットではなく水泳用ゴーグルを使うようなので、三人で珊瑚のところまで行ってみることにした。
はじめのうちは砂地なのでほとんど魚もいない。
レナは手を繋ぎたがるし、カナは母の浮き輪に背後からつかまりたがるし、いくら水を蹴っても蹴っても前に進まない。
珊瑚に辿り着く前に体力を使い果たしてしまいそうだ。
ずいぶん時間がかかったような気がしたが、ようやく珊瑚のある辺りまでやってきた。
レナはもう勝手に水中をのぞいている。
「ほら、カナ、あの黒っぽく見えるところが珊瑚だよ。あそこまで行けば魚が沢山いるよ」
「やだ、黒いところは怖い」
「綺麗だよ」
「怖いから行きたくない」
がちがちに固まって、背中にしがみついて震えている。
パパと行ったときもこんな風だったのかな。
まあ自分から来たいと言っただけ進歩だ。
「大丈夫大丈夫」
なだめながら何とか珊瑚の上まで移動する。
やだやだ言っているのを聞かず、せっかくここまで泳いできたのだからと自分はシュノーケルを始めることにする。
「あっ、しましまの魚」
「えっ、どこ?」
やっぱり怖いと言っても気にはなるようだ。
「このすぐ下にいるよ。のぞいてご覧」
しぶしぶ顔を水につける。
シュノーケル用のマスクはつけていないが、水泳用ゴーグルがあるから水中は見えるはずだ。
「あっ、いた」
「見えた?」
「見えた見えた。いっぱいいる。可愛い」
それからは夢中だった。
カナもすっかり海の中に魅せられてしまったようだ。
相変わらず母の腕か浮き輪につかまりながらだが、魚がいるというと必ずのぞくようになった。
「きれいだね」
「可愛いね」
よく考えるとシュノーケルも無しに海中見物をしているのだから、ある意味レナより凄いかも。