1.カヌチャの思い出
羽田空港でバケツをひっくり返したような大雨と、闇に光る稲光とをガラス越しに眺めながら、雨が降り始める前に家を出て、これから台風が真っ直ぐやってくる本州を離れ南の美ら島へ行くことのできる幸運に胸をなで下ろしていたところが、まだまだどんでん返しのジョーカーは潜んでいた。
そう、我が家の夏休み最大のイベント、8日間の沖縄旅行をスタートするそのための、最初の長い長い夜はまだ始まったばかり。
初日 2005年8月23日(火)
そもそも何で出発が夜の便になったか。
いやいや、何で沖縄なのか。
そこから話し始めないといけない。
遠出の旅行は年に一度の
ケアンズだけ。
あとは自家用車で近場をうろうろ。
それが我が家の旅行スタイルだった。
お金持ちじゃないから、あちこち行くためには、交通費も宿泊費も贅沢はできない。
家族で沖縄に行ったのは一度きり。
カナが二歳、レナはお腹の中で安定期に入ったあたりで、母の私もまだ勤め人だった。
家族が増えて自分が仕事を辞めたら、もうこんな贅沢はできないだろうと4泊5日で沖縄のカヌチャベイ・リゾートに遊びに出かけた。
ちょっとだけ奮発してホテルのノーマルタイプの部屋ではなくアゼリアというランクアップした部屋にしてみた。本当はバルコニーにジャグジーの付いたスイートルームに泊まってみたかったが、完璧予算オーバーだったので。
ところがホテルについてチェックインしたところ、アゼリアではなくジャスミンに案内された。
ジャスミンというのはアゼリアよりさらに上のランクで、ホテル棟ではなくヴィラタイプだ。
部屋は滅茶苦茶広いしプライベート感もある。バスルームからはゴルフコースが見えて景色も上々。なんてラッキーと思った。
ところが滞在して三日目に部屋のドアが壊れてしまった(私たちが壊したわけではない、念のため)。
早速フロントに伝えたところ、すぐには直らないようで部屋を移ってほしいと頼まれた。
ホテル側の事情で部屋を移るのだから当然(さらに)ランクアップしてもらえるのだろうと思ったら、本当にスイートルームに案内してもらえた。
うーん。幸運もここまで来ると怖いくらい。
憧れだったバルコニーのジャグジーも体験できたしもう何も言うこと無し。
最後にホテルは「申し訳ありませんでした」とお土産まで持たせてくれた。
あれが最後。
そしてあんなに美味しい思いをしてしまったので、もう沖縄ではどのリゾートホテルに泊まってもあのときと比較してしまうだろうと思っていた。
いや、そもそももう沖縄なんて行かれるかどうか。
それがパパがある日、「今年の夏は沖縄に行くぞ」
ええーっ。
本気?
ドコにそんなお金が(こらこら)。