鳴子温泉巡り旅
ところがいざ行ってみると、大浴場には先客がいらした。
ちょうどここは脱衣所から浴室を見下ろすような構造になっている。湯治客らしい男性が一人入浴中だ。
一応脱衣所は男女別になっているものの、何故かその男性の衣類は女性用とおぼしき脱衣所の棚にある。
ここに来てくららさんがまた悩んでしまった。
「・・・どうしよう。やっぱりもう一つのお風呂に案内してもらった方がいいかな」
私はどっちでもいい。
先客はどう見ても湯治に来たおじいさんで、混浴しても気にならない。ただ、脱衣所をどちらを使うかがちょっと悩ましいけど、おじいさんと同時に出ないようにすれば何とかなるだろう。
おじいさんの衣類がある女性用ではなく、男性用の脱衣所ではパパとデビさんがさっさと脱いでしまって浴室へ向かう気配がしていた。
「やっぱり別の浴室を使わせてもらえるよう女将さんに頼んでみよう」とくららさん。
私はガラス越しに見る黒っぽいお湯に心惹かれたが、別に拘りは無い。
それから二人で女将さんを捜しに古い廊下を歩いたが、玄関まで来ても、そこから離れた帳場の方に向かってもまるっきり建物の中に人の気配はなかった。
三連休のなか日にこんなに静まり返っていて大丈夫だろうか・・・余計なことまで気になってくる。
ようやく帳場のある突き当たりで声を掛けるとさきほどの女将さんが姿を現した。
「他のお客さんが入っていらしたので、やっぱり別の浴室に入れていただきたいんですが」
女将さんはそれご覧と、少しばかりムッとした口調で「だから先に別のお風呂にご案内しましょうかと言ったんですよ」と仰った。
しまった、怒らせちゃったかな。
新たに案内してくれた浴室の入り口には、「岩風呂 午後七時から午後十時まで女性専用」と札が下がっており、それとは別に手書きで「宿泊者以外、入浴お断り」と書かれている。
ここは宿泊者専用のお風呂だったのだ。
「特別にこちらにご案内しましたけど、本当はこちらは宿泊しないと使えないお風呂なんですよ」
もしかしてとてもラッキーだったのか、それとも・・・?