「先に入っていていいよ」
「やだよ、熱いかもしれない」
飯坂温泉は熱い熱いと先に言いすぎたかもしれない。熱い湯の嫌いなカナは既に後込みしている。
露天風呂はかなり広く、上と下からお湯を入れている。吸い込み口は無く、完全掛け流し。お風呂の広さで自然冷却するようになっていて、入り口にこの辺が熱めでこの辺がぬるめと丁寧に図解してある。
ぬるめのところのお湯を見ると、確かに決して熱くない。ちょうど良いくらいだ。
「熱くないよ。入っておいでよ」
チャレンジャーのレナが先に入った。
「あっちっちっ」とかいいながら背中を押さえている。いやぁ、そんなに熱くないって。
カナは掛け湯は済ませたもののなかなか入ってこない。
「ホントに熱くない? ホントに?」
だから自分で試してみればいいじゃないかー。
やっとお湯の中に入るとカナは今度は風呂の奥の方にある島になった岩が気になりだした。
「あそこまで行ってみたい」
「行ってみれば」
「熱いかも」
「だから行かれる所まで行って熱くなったら諦めれば」
「・・・」
熱いの熱くないのとぶつぶついいながら妹の手を引いて、何故か桶を浮かべながら彼女はようやく島までついた。
島になった岩の上に仁王立ちになって、何だか知らないけど大喜び。
「この島に上った子供はきっと私たちが最初だ」
いや、決してそんなことはないと思うけどここは黙っていよう。
飯坂温泉の湯は無色透明の単純泉で、特に強い臭いや感触があるわけじゃない。
ほんのりと甘い石の臭いがする。石の臭いって変だけど、そんな感じ。どこか懐かしい優しい臭い。
夜の露天風呂は静かで誰もいなくてくつろげた。