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◇◆赤倉温泉◆◇
子連れスキーと温泉旅行

7.また次の冬まで










 中は意外と空いていて、入浴している人はほんの1人だった。
 浴槽は長方形の角を削った変形多角形。
 お湯は少し熱め。ほのかに硫黄の臭い。でも湯口が桧でできているのでお風呂の中ではむしろそちらの臭いの方が強く感じられる。
 きしきしする肌触りで、お湯そのものはさらりとしている。
 無色透明ではなくほのかに濁りがある。
 あまり個性的なお湯ではないけれど、何となく落ち着く。

 上がると、「もう上がったのかね。こちらが着替えている間に入って出てくるなんて若い人は早いねぇ」
 「こっちは着る物がいっぱいあるから時間が掛かる」
 「年をとると何をするでも手足が効かなくなって時間がかかって」と、次々と話しかけられる。
 何だかこんな雰囲気が好きで共同浴場を見つけると寄ってみたくなるのかもしれない。
 ここは特に、浴槽や入浴人数と比較して湯口から出ているお湯の量が少な目なので、鮮度の良さはあまり感じられないが、このフレンドリーにあれやこれや世話を焼いてくれる地元の人たちのことが強く印象に残った。
 使わせて貰った石鹸を元の場所に返しておくと、後から入ってきた人がまたそれを手にして浴室へ消えていった。誰か個人の持ち物ではなく、みんなで利用している石鹸なのだった。
 二つある石鹸箱のデザインが違っていることからも、これは元々備え付けの石鹸ではなく誰彼となく自宅から持ち寄ったものなのだろう。
 小さな共同体の良いところがそのまま残っている。そんな感じだった。

近くにあるスキー神社



 体も心もほかほかと温まって外に出ると、パパは共同浴場のすぐ近くに車を停めて待っていてくれた。
 乗り込もうとすると、さっき脱衣所で話をしたおばちゃんの一人が横を通った。
 車のナンバーをしげしげと見ている。
 「おやまぁ、ずいぶん遠くから来たんだね」と驚いた顔。
 「はい、東京から」
 「それじゃお気をつけて」
 おばちゃんが行ってしまってから、パパは「何を話していたの?」と聞いてきた。
 「うん、お風呂で会った人。遠くから来たから吃驚したって」
 こんな風な温泉が近くにあったらいいな。
 スキー場に近いあの赤倉ですら時代から取り残されつつある今、妙高温泉という場所自体、既にかなり寂れているのではないかと思うが、あの共同浴場はこのままであってほしい。
 湯上がりの肌からは何だか甘いいい匂い。


 バタバタいっていたアンテナは、結局コンビニを探してビニールテープを買い、応急手当した。
 簡単に言うけれど、この小さな町でコンビニを探すのはそれなりに手間で、結構ぐるぐると路地を走り回った。
 一度は食品を主に置いている個人商店のようなところにも入ってみたが置いていなかったので。
 そして妙高温泉からは妙高高原ICまですぐ。
 高速に乗ると、旅が終わってしまったような気がする。
 さよなら新潟。
 また次の冬まで。







おしまい


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