カナが「泊まっているみらいはどの辺?」と聞いてきた。
・・・うーん、お風呂から見える方角とも限らないし・・・と思って下を覗き込むと、ちょうど真正面の谷筋に光の帯のように電車が見えた。
あっ、あれはほくほく線か。そうすると正面がまつだい駅だ。
えーと、そうしたらみらい2号館はどっちの方角になるのかなぁ。
考え込んでいると、隣にいた奥さんが「あの山の上に見える光、あれがおふくろ館よ」と教えてくれた。
「えっ」
自分に話しかけられたとしばらく気づかなくて間抜けな返答を返してしまった。
「あれが
松之山のおふくろ館なの。それからもうちょっと右手の山の中腹に見える灯りが松代のお城ね」
「松之山のおふくろ館、知ってますよ。ちょうど一年前にお蕎麦を食べに行ったんです。あそこのお蕎麦は美味しいですよね」
「そう、手打ちだからね。おふくろ館の窓から見るとね、ちょうど真っ正面の山の上にこの雲海の灯りが見えるのよ。だから雲海からも真っ正面におふくろ館の灯りが見えるの」
「へえー、もしかしておふくろ館の方ですか?」
「違うわよー。地元だけどね。あなたはどちらから?」
「東京です。毎年年末年始は松代で過ごしているんです」
「実家がこちらなのかしら」
「いやそういうわけでもなくて、松代の貸民家が気に入ってそこで年越ししているんです」
いつの間にか辺りはとっぷりと暗くなっていて、ぽつりと正面に見えるおふくろ館の灯りは、まるで闇に浮かぶしるべの一等星のようだった。