1.朝風呂用モーニングコール
電話のベルで起こされた。
部屋の電話が鳴っている。フロントからだろうか。でも室内が薄暗いのでどこに電話があるのか判らない。
うろうろして探し当て、ようやく受話器を取ると、それは自動音声によるモーニングコールだった。
パパがセットしたんだな。
当の本人の布団はもぬけの空。もう一人でさっさと早起きして朝風呂に向かったらしい。
時間は朝の6時50分。
やがてパパが戻ってきたので朝風呂に行くことにした。
この宿は部屋はわずかに8室。しかも私たちの部屋は隣が浴室だ。
タオルだけ持ってほくほくと出かける。
脱衣所に着いて振り返るとカナがいた。
「あれ? パパに行っておいでって言われたの?」
「ううん」
珍しいこと。自主的に朝風呂に来たらしい。
金誠館の浴室は手前と奥の二つに別れていて、手前は普通の内風呂、奥はサンルームのようになっている。といっても、昨日も今日も大雪で、昼までも薄暗く光はあまりささなかったが。
カナが奥から入ったので、つきあって最初は奥に入った。
女湯はサンルームの方がぬるく、内側が熱い。男湯は逆だったそうだ。
昨日と同じ淡い石膏の臭いと甘い臭い。きしきしとして少しぺとぺととする。
最後に少し熱い方に入ってしゃきっとさせてから出た。
カナは先に上がって部屋に戻っていた。