1.初詣てんやわんや
雪はやんでいた。
辺りは真っ暗でシンと静まり返っている。
見上げても月も星も見えない。
寒さはそれほど感じない。
歩き出すと足下の雪がさくっさくっと踏みしめられる音がした。
みらい2号館の前の道を少し登ると、確か一軒家があったはずだ。
たぶん若井さんの言っていたのはそこだろう。
ほんの十数メートルほどの距離だ。
その家は入り口に灯りがついていたが、見たところ家の裏手の道というのは無さそうだった。
パパがこれじゃないよと言い出した。
「だってこれ、民家じゃなくて公共の建物らしいじゃないか」
じゃあもっと先のことだろうか。
みんな雪で埋まりかけた轍の跡に沿って歩き出す。
道の両側はそそり立つ雪の壁だ。
しばらく歩いたところでみんな足を止める。
「本当にこんなに遠くかなぁ」
「若井さんはもっと近いようなことを言っていたよね」
「お宮までは歩いて10分ぐらいだって言っていたけど、それは踏み固められた所を登る時間も入れてのことだもんねぇ」
「もしかして2号館を出て反対側に行くんだったのかな」
「若井さんは右って言ってなかったっけ」
みんな言うことが曖昧だ。
何しろみんな酔っ払いなのだ。