11.赤川荘の温泉
妙に洋風だったのは外観の色や入り口だけで、脱衣所も浴室もごく普通の温泉宿のものだ。
浴室は少し薄暗く、手前と奥にそれぞれ一つずつ岩で囲まれた浴槽がある。
手前が非加熱、奥が加熱。両方とも青白くとてもきれいな濁り湯。特に湯口が非現実的なほど真っ黄色に染まっている。
お湯と岩の境目のところも白っぽい粉が付いたように色が付いていて縁取りみたいになっている。
そんなわけで見た目は手前も奥も同じように見えるが、手前は水のように冷たく、奥は加熱してちょうど良い温度だった。
奥に一人若い女性が入っていたし、私が来てすぐにもう一人の入浴客が浴室に入ってきたが、誰も手前の非加熱浴槽に近寄ろうともしない。
二人とも奥の加熱浴槽に入ったまま動かない。
私は非加熱浴槽に手を入れてみたが、やはりあまりにも冷たすぎてそのまま入るのは無理だと思った。
シャワーで流してから加熱浴槽に入り、少し温まってきたところでようやく非加熱浴槽にチャレンジすることに。
すっごいマッチのような火薬のにおいが強い。きしつく。
腰まで入ってまた加熱で温まってを繰り返し、何度目かにやっと首までつかる。
ひんやりとアイスクリームに入っているみたい。
冷たいゆでたまごみたいなにおいに包まれている自分。
味は硫黄に炭酸入れました的な、味わったことのない奇妙な味。
口の中はじゅわじゅわするがはっきり言って不味い。
湯上りは肌から硫化水素のにおいが立ち上るかのよう。
朝、地獄温泉のすずめの湯で染みついたにおいが内牧温泉で洗い流され、
赤川温泉赤川荘で再びっていう感じ。
とにかく加熱浴槽がすぐ隣にあるのは良かった。あれが無かったらとても非加熱には入れなかった。
それもまだ夏だから何とか入れたので、冬になると非加熱は凍りそうに冷たいらしい。くわばらくわばら。