◆◇九州温泉巡り旅行記◇◆
阿蘇-長湯温泉-黒川温泉

23.天安河原

　河原まで降りてきた。小さな橋を渡ってまだ歩道は続く。
　何だかふっと人ごみが途切れた気がした。
　パパはこの時正面から歩いてくる人の姿が無くなったので現地に到着したんだなと思ったらしい。

　川はそのまま流れていくが歩道は左に折れていた。
　歩いていくと岩陰から現れたのは何とも異様な雰囲気の場所だった。
　異様と言ってもなんというか、伊弉諾尊が死した妻を追って黄泉下りをした時の黄泉の入り口がここだと言われても信じてしまいそうな、そんな神々しさと禍々しさが同居しているような場所。
　洞穴のような岩が穿たれたそこに鳥居と祭壇があり、周囲の石という石の上には賽の河原よろしく小石が延々と積み上げてある。
　人が沢山いるのにそこだけ温度が低い。
　決して石にぶつかって小石を落としてはいけないような気がする。
　お参りを済ませて安河原を離れるまでぞわぞわと毛が逆立つような気配は消えなかった。

　ちょっと歩いたけど来てよかった天安河原。
　角を曲がって洞窟が見えなくなると、もうそこは普通の河原だった。
　「せっかくだから車を停めた方の東本宮も見ていく？」とパパ。
　ああーっと、もう一ヶ所寄りたい温泉があるんだけどマジで時間無くなるな。まあいいか。