温室かビニールハウスみたいな工事現場のパイプと半透明のトタン板を組み合わせたB級感、いやいや手作り感満載の壁と天井。
その簡易な天井を支えるためにあちこちに丸太の柱が立っている。
浴室は縦に細長く、二つの浴槽が並んでいて、手前のひとつはお湯が入っていなかった。
それだけに、お湯を抜くと浴槽の中がどんな風になるのかが目に見えて面白かったとも言える。
空っぽの浴槽は成分で染まって真っ茶色で、浴槽の内側の壁の部分は陸ガメの甲羅みたいに亀甲にひび割れている。
お湯を張っていた時のお湯との境目の部分は、テーブルに粘性のある液体を垂らして固めたみたいな形になっていて、全体として異様な雰囲気だ。
そもそもこれ、浴槽はどういう形のしろものだったんだろう。得体のしれない状態になっていてよく判らない。
ちなみに男湯からは窓から海が見えるらしいけど、女湯は何も見えない。
手前は空っぽだったが、奥の方の浴槽はちゃんとお湯が入っている。
渋い黄緑色の濁り湯で、湯の花がまたすんごい。
細かいのもいっぱい漂っているけど、目立つのはひび割れた流氷みたいなタイプ。
これ、下から指ですくってすりつぶしてみるとわかるけど、まるでガラスのよう。
パリパリと薄く脆く、指で粉々にする感触が儚くてとても面白い。とても綺麗なものを破壊しているみたい。
温度は気持ちぬるめ。湯口の近くならちょうどいい。
においは思ったほど感じられない。
そして意外にもあまりあったまる気がしない。
ぬるいせいもあるけど、出るとすぐに寒いと感じる。でも焦ってまたお湯に入ろうとすると、不規則な析出物にぶつかって痣を作りそうで要注意。
味は出汁味にじゅわっとするものがあり、浴槽の上の看板に鉄泉水とある割にはあまり金属っぽさは感じられなかった。
ここは面白い温泉だねぇ。話のタネにも一度入っておきたいお湯だ。
私たちが上がって駐車場に戻る時、ちょうど次のお客さんの車が入ってきた。
それにしても道路から緑の屋根の廃屋みたいな建物が見えた時はどうしようかと思ったよ。