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平湯キャンプ場日記2-7


7.新平湯温泉の思い出

 食事は部屋食ではなく、食事処へ移動しなければならないが、ちゃんと部屋ごとに個室になっていて、子連れでも気兼ねない。
 自分は部屋食は好きじゃないのでこの方が嬉しい。
 寝る部屋で食べるって言うのは落ち着かないし、食事が終わっても部屋に食べ物の匂いが漂っているのは嫌なのだ。

 宿のホームページを見れば一泊2食で18,000円から。
 普通の人は判らないが、我が家の金銭感覚からいったらまず泊まらないクラスの宿だ。
 それをtocooで射程距離内の料金に納めてもらっているので、食事は期待できないかなと思っていた。
 それがまあ、ちゃんとした内容だった。
 ちゃんとしたというのも変だが、期待した以上だった。新平湯温泉旅館のお約束、飛騨牛も忘れず付いてくる。
 内容は料金を考えると二重丸。味は、残念ながら「素晴らしい、他の人にも勧めたい」というほどではなかった。
 新平湯温泉には、味で言ったら「絶対ここは美味しい」と言えるところを知っている。が、昔の話なので、今もそうであるかはちょっと判らない。

 昔話が出たついでに、そのときのことを思い返してみよう。
 まだレナは生まれていなくて、カナがお腹の中にいた頃だ。
 初期はつわりでげろげろで、ようやく安定期に入って気持ち悪くなくなった。
 妊娠発覚直前に奥鬼怒温泉郷の女夫淵だとか加仁湯だとか八丁ノ湯だとかを巡ったきり、しばらく温泉に入っていなかった。
 久しぶりに行こうと決めて、二泊で計画を立てた。
 初日の宿泊先は大町ニューオータニ。前に泊まった宇奈月ニューオータニが良い感じのホテルだったので決めたのだが、ニューオータニ系列とはちょっと信じられない安っぽく老朽化した施設だった。従業員の教育だけは行き届いていたが、外観や部屋があんまりな出来なので、接客だけが浮いているようにすら見えた。
 ちなみにここはその後廃業したらしい。

 二泊目は栃尾温泉を考えた。オフシーズンだし平日だし、軽く取れるだろうと踏んで電話をしてみれば、狙った宿は狙いすぎで、他に客がいないからその日は休業すると言われてしまった。
 とほほ。
 仕方なく、じゃここでいいかと軽く選んだのが栃尾のご近所新平湯。
 何の前知識もなく車を走らせれば、新平湯というのはどうにも風情のない温泉街だった。
 平湯と名前が似ているので、歴史ある平湯みたいな雰囲気かと思ったら、何だか国道沿いに田舎の民家が建ち並び、その中にぽつぽつと宿が混じっているような感じ。いかにも温泉に来たという気にはなれず、第一印象はいまいちだった。
 何となくがっかりしながら予約した宿の前に車をつければ、そこには益々いまいちな建物が待っていた。
 あの大町ニューオータニより遙かに落胆した記憶があるので、よほど雰囲気のない外観だったのだろう。

 失敗したかな。

 しかし、入り口入って記帳を済ませ、部屋に案内されると不安は吹き飛んだ。
 宿の主は感じよく、部屋は驚くほど綺麗だったのだ。
 格別広かったり、他の旅館とレイアウトが違っていたわけではない。
 畳がまだ青々として芳しく、さりげなく品良いわすれな草が活けてあった。生花を飾った部屋に通されたのは初めてで、かなり驚いた。

 ところでこのとき、たまたま新平湯は停電中だった。
 宿の中も電気がつかないので、仕方なく外をぶらぶらしていた。まだ昼間だったので外は明るく、道を挟んだ土産物屋に寄れば、停電でレジは動かない、自販機は動かない、商売にならず地元の人も笑いながら立ち話に興じていた。
 なんでも停電の原因は、観光バスが電信柱に衝突したためだそうだ。
「どこで?」
「ほら、あのクマ牧場の前よ」
 なんて会話が呑気に交わされていた。

 ようやく電気が戻り、宿のお風呂に行こうとすれば、露天風呂は一つしかないが、今日のお客さんはあなた達だけだから、好きに混浴にして下さいと言われる。
 お風呂の様子をのぞきに行くと、主が汗だくでホースの水を足していた。
「源泉の供給元から来る量が不安定で、急にお風呂が熱湯になっちゃったので少々お待ち下さい」
 利用客は私たちだけなのに、快適に入れるようにと一所懸命な姿に、何だか嬉しくなってしまった(いや、まあ、加水は加水だけどさ、許す)。

 食事は部屋食か食堂かと思ったら、隣室に案内された。
 他に泊まり客が一人もいないので、隣の客室に食事を用意してくれたのだ。
 ここで心底驚いたこと。
 それは、部屋のレイアウトはまったく同じなのに、活けられたわすれな草の色だけが違ったのだ。
 何というセンスの良い心配り。
 しかもこの花、宿の裏手で自ら栽培しているのだ(裏を覗くとちょっとプランターが散乱しているのが玉に瑕)。

 そして、この宿の料理の美味しかったこと。
 高級宿に縁がない私たちだから比較対照は少ないが、温泉宿でここ以上の味にあったことはまだ無い。
 その宿の名は、なかだ館。
 直後にリニューアルして団体観光客を受け入れるような立派な宿になってしまった。今の名は長作の宿なかだ屋。
 今もあの心温まるサービス精神と料理の腕が活かされているのかは、いつか機会があれば知ることができるだろう。


古宝館の夕食 新平湯温泉では飛騨牛がお約束




2-8.朧月夜へ続く


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