1.榛名湖日記8 プロローグ
初日 2003年12月26日(金)
12月に入ってから暖かい日が続いていた。
東京はもちろん、雪国でもほとんど雪がないと聞く。今度の旅行で雪見露天風呂は期待できないかもしれないと思ったくらいだ。
それが先週末に強い冬型の低気圧が入ってきて、群馬はもちろん埼玉の北部も白く染まった。山々に雪を降らせた冷たい大気は、最後にからからに乾いて、東京を吹きぬけた。あちこちの初雪の便りをテレビで聞きながら、雲ひとつ無い首都圏の空を見上げていた。
…榛名湖行きまであと一週間。
昨夜はぎりぎりまで年賀状の印刷をしていた。
カナはかぞえで七歳、レナは満で三歳、どうせなら七五三は一緒に晴れ着を着せようと思ったものの、もたもたしていたらあっという間に11月後半。あわてて写真屋に予約を入れ撮影はしたが、何枚も撮ったネガから使う一枚を自分たちで選ばせてもらったりしていたら、受け取りがクリスマスになってしまった。やっと出来上がった写真をスキャナで取り込んで年賀状を印刷する。翌日には群馬へ出発だ。かなりせわしいスケジュール。
職場の忘年会を終えて10時ごろに帰ってきたパパは、その夜はそのまま寝てしまったので、朝は4時に起き出して荷物の準備を始めた。
がさがさいう音でこちらも目が覚める。目覚ましは5時にセットしたけれど、このまま起きて暗いうちに出発しよう。
5時過ぎ。
車に乗り込む時点で一度目を覚ました子供たちも、またすぐ寝付く。
窓の外はまだ暗い。
12月後半、今は一年で最も夜の長い季節だ。
関越自動車道の上里PAで休憩。
暁光が差し、ゆっくりと空が明るくなってくる。
レナが先に起きて、姉を起こした。
朝食はパン。上里PAは西武系で、パン屋もレストランもプリンスホテルだ。
藤岡ジャンクションで、いつものように高崎方面へ向かわず、今日は上信越自動車道へ向かうことにする。
下仁田の手前で奇山、妙義の向こうに端麗な白い山容。パパがまさか富士山じゃないよね、と言う。あの方角は軽井沢…浅間山だろうか。
碓氷軽井沢ICで高速を降りる。軽井沢はまだクリスマスの夜から目覚めていないようだった。道には小さなツリーやサンタの人形。夏の軽井沢しか知らないから、ひと気の無い白いリゾートタウンは何だか新鮮。道の端には思ったより雪がある。日ごろ晴天率の高い軽井沢。先週の雪はこの辺りでもかなり積もったようだ。
そう、ここでは青空が迎えてくれた。これから向かう山の上でも同じように太陽が望めれば良いのだけれど。